光へと至る道



多くの兵を引き連れた三成が内門を突破した。
咲良は深く息を吸い、笛の歌口に唇を寄せる。
奏でる曲は…人を暗く、切ない気持ちにさせるような、それで居て美しい旋律。
美しい音に願いを乗せて三成にぶつける。
この旋律を耳にした、黄忠軍に襲い掛かる者達が、激しい耳鳴りと頭痛を起こして戦線を離脱しますように、と強く念じて笛を奏でた。
…これ以上の非道なやり方は、今の咲良には選べなかった。


「…ぐっ、何だ…頭が割れる…!」


咲良が生み出した旋律の効果であろうか、足軽達は悲鳴を上げて馬から転げ落ち、頭を抱えている。
ただでさえ視界が悪い中、それに巻き込まれて次々と落馬する者が続き、辺りは騒然とする。
女禍に指摘された通り、笛の力が確かであることを理解した咲良は演奏を止め、こっそりと様子をうかがった。
ひとまずはこれで、黄忠は救われる…、と安心したのも束の間。


「惑わされるな!此処で立ち止まることは許されぬ!」


一軍を率いていた三成は、眉間に皺を寄せ苦痛に顔を歪めてはいたが、しっかりと手綱を握っている。
確かに咲良の笛の音は聴こえていたのだろう。
だが三成は屈することなく、声を張り上げて皆を鼓舞するのだ。
痛みに耐え、それに呼応する足軽達。

咲良はその姿に圧倒されてしまった。
石田三成という人は人望が無く、戦下手。
この凛とした姿を見せられたら、そのような批評など全て否定してしまえる。
三成は己の声だけで士気を上げた。
笛に頼らなければならない咲良とは違う、彼は本当の実力者である。
やはり、戦場に音楽など場違いだったのか。


(駄目だよ…このままじゃ黄忠さんが…!)


居ても立ってもいられなくて、咲良は急いで黄忠の元へと飛んだ。
心を乱された咲良は冷静になることもままならず、三成に音楽が通用しないなら黄忠に笛を聴いてもらおう、と単純に考えたのだ。

一つだけ、咲良には分かっていることがあった。
このままでは、私は勝手に自滅してしまう。
言うなればこれは初陣である。
策略を巡らすだけの英知や才も、悪を打ち砕く正義の剣も持っていない。
そして、一人だ。
今の咲良には、心から頼れる者が居なかった。


 

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