儚げな面差し



「私の気持ちが、音色を通して、聴き手の心を動かす…。もしそれが、思うままに出来るようになったら…」

「出来るのだ。英雄達の行く末を見届けたいならば、お前は後ろに下がっていれば良い。上手く音を操り、お前が着いていくと決めた者達を鼓舞するのだ」


前線で武器を振り回して戦う必要は無い、すなわち、サポート役に徹しろと言うことだ。
同じ志を持つ者達へ、心からの旋律を捧げる。
元気を出して、頑張ってほしいと想いを込めて。
味方を鼓舞するだけではなく、敵の士気を下げるような旋律だって奏でられるはずだ、と女禍は笑って言った。


「お前の力を認めさせ、居場所を作れば良かろう。だが…何故このような面倒なやり方を選ぶのだ?咲良、孫呉に戻るつもりは無いのか?」

「はい…申し訳ないのですが…、今はまだ、孫呉に帰ることは出来ません」


戦う力を得て、面識の無い将達に近付きわざわざ従軍しなくとも、孫呉に帰還し彼らと共に行動すれば、いずれは遠呂智に辿り着くだろうに、何故そうしないのかと女禍は言っているのだ。
それでも…、強がっている訳でもなく、咲良はまだ、孫呉へ帰ることは出来ないと拒んでいた。


「私は妲己に狙われています。もう、孫呉の皆を巻き込みたくないから…少しでも、遠くに居た方が良いんです」

「そうか。私は余計なことをしてしまったようだ。咲良…、不安なのだろう?すまなかった」

「……、」


全てが終わったら…、その時は、笑って孫呉に帰ることも出来るだろう。
今は孫権の傍に居るであろう周泰も、必ず、優しく迎えて…抱き締めてくれると思う。
この世界の、私の居場所。
孫呉は、第二の故郷と呼んでも過言ではない、それほど大事な場所だ。


(でもね…私はきっと皆を裏切るよ。どこまでいっても、私は悠生が大切だから…)


恋はもう…、出来ない。
してはいけない。
呂布を想い続けた貂蝉のように、最後まで愛することが出来ないのならば…最初から恋などするべきではなかった。


 

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