神聖な敷居



「予言の悠久とはその笛を指しているのではない。咲良、お前の弟のことだ」

「悠生…?って、悠生が神様!?えっと、つまり、生まれ変わり…ってことですか?」

「…ああ、そういうことになろうか。そして、お前こそが涙を名に持つ者だった。しかし、私も、あのような子供が世界の創造神・盤古の生まれ変わりだとは信じがたいが…」

「で、でも悠生は普通の男の子なんですよ!?そんな、神様の器じゃないと思うし、ずっと平凡に生きてきたのに…」


あまりにも、現実離れし過ぎている話だった。
悠生がこの世界を作った神様だなんて、どうにか理由を付けて否定しようとするが、女禍は空気を読まずに冗談を言うような性格では無い。
伏犠でさえその顔に笑顔は無く、神妙そうな表情で空を眺めているのだ。


「此処はかつて、盤古の生み出した世界。役目を終えた盤古は全ての元となる仙人と世界を残して消えた。後に、私達のような仙人が生まれた。盤古の意志の元、世界は歩む道を変えていった。そして、創造された新たな道の上を歩かされているのが、咲良だ」

「女禍の物言いは難解じゃのう。咲良よ、"盤古が創造せし世界は悠久の夢"。おぬしは弟の夢に付き合わされているだけじゃ。そう考えれば良い」

「この世界が、悠生の夢…?」


髪を揺らす風も、照りつける輝きも。
息をしていた、血の通っていた…優しくてあたたかい人々、キャラクターという次元を飛び出して、生きていた武将たち。
それら全てが、悠生の想像によって生まれた夢だというのだろうか。

以前の悠生は…、部屋に引きこもってゲームや読書ばかりしていた悠生は、人生を楽しいと感じたことなど無かったのだろう。
人と接することが苦手で、友達と呼べる存在も無く、ずっと寂しい想いをしていた。
心の奥底でくすぶっていた、未来への諦め。
だからこそ、英雄達が活躍した過去の歴史に夢を見て、悠生は全てを投げ捨て、大好きなゲームの世界を現実にしてしまったのだ。


(あれ…それだとちょっと違うかな…?だって、悠生が本当にこの…無双が存在する世界の盤古さんの生まれ変わりなら、私達が史実としていた歴史が偽物になっちゃうんじゃ…)


此処は、現実とは違う完全なる異世界である。
並行世界…パラレルワールドというものだろうか。
つまり、生まれ育った世界とは異なるもう一つの世界…無双の世界に投げ出され咲良と悠生は、この世界で死に、無双が史実である未来に生まれ変わることとなるのだ。
悠生は盤古、そして黄悠の…、咲良は落涙として転生し、歴史に名を刻むことになるのかもしれない。


 

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