純真な瞳から



ずっと待ち望んでいた、悠生からの手紙。
ごめんね、と…弟の綴った文字を実際に口にした咲良は、ぎゅっと強く胸を締め付けられる想いをした。
何故、謝る必要があるのだと。
面白いゲームだから、と無双を自分に教えたのは間違いなく弟だが、だからと言い、このような事態に陥った原因が悠生のせいだとは微塵も思わない。


(私だって…無双が大好きなんだから…)


この世界に来てしまったことを悔やみ、嘆く日があるのも事実だ。
悲しいと感じるのは、大好きな家族と引き離されたからであり、あの時ゲームに誘ったからと言って悠生を恨んだことは一度だって無いのだ。

陸遜が目線で続きをと促すので、小さく頷いてみせる。
内容については触れないが、彼らは冒頭の一節を、同じ地に有りながら会いに行くことが出来ないことを謝っているのだと解釈しているのだろう。
黄悠が落涙に謝罪をする、真の理由を知るはずもなく。


【僕はずっと蜀にいたんだ。
咲良ちゃんが此処で頑張っていることを知ったのは最近のことで、僕が蜀から離れてからだった。
孫呉のみんなは優しいけど、此処に暮らす気はないし、僕は咲良ちゃんに会うことも出来ないんだ。
咲良ちゃんに会ったら、僕はきっと蜀に帰れなくなるから。
それじゃあ、ダメなんだ。
僕はもう、決めたんだ。
生まれて初めて出来た友達の手を、僕の方から放すのは、絶対に嫌だから】


ともだち…、その単語を声にした咲良は、暫くその四文字から目を離せずにいた。
頑ななまでに孫呉を拒絶し、蜀への帰還を切に願っている悠生。
その理由が、初めての友達だと言うのだ。

悠生は病弱なため学校を休みがちであり、さらにはコミュニケーションが苦手なせいで、友達と呼べる存在が居なかった。
そんな弟を咲良も心配していたが、目に付くいじめを受けているわけでも無いから口を挟むことも出来ず、何より悠生自身が介入を拒んでいた。
彼なりにプライドがあったのだろうか。
家族にカッコ悪い姿を見せるぐらいなら我慢をすると、ひとりで辛い想いをしていたのだろうか。


「黄悠のやつ、俺にも似たようなことを話してくれたぜ。言わねえって約束したから詳しくは話さねえが…結局あいつは、始めから蜀しか見ていなかったんだな」

「甘寧さん、あの子と話をしたんですか?」

「甘寧殿!もしや、貴方は私から身を隠すため黄悠殿の元に…」


陸遜の指摘にも、甘寧は言い訳をせず苦笑するばかりだ。
悠生は、自らの心の内を甘寧に打ち明けていた。
何かしら通じるものがあったのだろう、もしくは、誰かに言わずにはいられないほど、苦しんでいたのかもしれない。


 

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