運命に抗う力



「ふふふ、こっちよ。虎のお姫様」

「なっ…何よ…!?あなた、何者!?」


聞き覚えのあった、ある種の恐怖を覚えてしまう女の声に、咲良の背が泡だった。
妲己…その姿を目にしたことがある咲良はともかく、皆は突如として現れた一見すると天女にも思える女の、その妖絶さと恐ろしさに圧倒されていた。
やはり連日の地震は、遠呂智の降臨に伴う現象だったのだろうか。
だが、その元凶とも言える妲己自らが再び乗り込んでくるとは。


「良い?私に従わないと殺しちゃうわよ?」


無邪気に笑み、恐ろしいことを口にする。
室内の異変に気付き、駆け込んできた兵士に向け、妲己は面倒くさそうに手を振りかざし無数の玉を飛ばした。
途端、体中に風穴が空く。
咲良も思わず目を背けてしまう。
だが、耳を塞ぐことが出来なかった。
聞きたくもない生々しい音を、しっかり記憶してしまったのだ。

逆らえばこうなるという見せしめだ。
殺戮を目撃してしまった女性達の悲鳴を、妲己は何が面白いのか腹を抱えて笑うばかりだった。


「ふざけないで!人を傷付けておいて…、あなたいったい何なのよ!?」

「怒った顔も可愛いのね。でも、あんまり騒ぎ立てられても困るのよね…、静かにしてくれないと、まだまだ殺しちゃうから!」


尚香は怯える大喬らを庇い、自らは弱い姿を見せぬよう振る舞い、果敢に立ち向かっている。
しかし、妲己は鋭い瞳を向け、尚香を軽くあしらう。
次に彼女の眼差しがとらえたものは、本来、無双とは全く関わりの無いはずの咲良だった。


「あなたなら分かっているでしょう?落涙さん。さあ、行きましょう」

「っ……!」


…差し出された手は、咲良を試している。
これは、紛れもなく脅しであった。
姫達を人質に、断れば彼女達の命の保証はしないと。
小春の件で、一度は加害者となった身だ、落涙までも妲己の仲間と疑われてもおかしくないだろう。
誰も、秘密で固めた落涙の事情を知る術など持たないのだから。

だがもし、妲己に身を委ねれば、何よりも先に、自らの命が危うくなる。
遠呂智にとって不都合な旋律を奏でられる楽師など、妲己が生かしておくはずがない。


 

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