運命に抗う力



「ああ…私、どうしたら…!」

「お義姉様、いったい何があったの!?」

「娘が、小春が…居なくなってしまったのです!!昨夜は確かに寝顔を確認したのに、今朝は何処にも…!」


小春の行方が知れないという事実に、咲良は胸が痛み、息が詰まりそうになった。
小春はあの事件以来、ずっと眠り続けていたが、今朝になって寝台の中は蛻の殻だったと言うのだ。
無断で姫に触れる者が居るはずもない。
それに加えて、この緊急時だ。
最悪の想像をしてしまった大喬は、かつてないほどに取り乱していた。
駆け付けた小喬と共に、辺りをくまなく捜していた大喬だが、女官や使用人が悲痛な声で避難を切望し、半強制的に連れられてきてしまった。

尚香は必死に大喬を励ますが、小春の無事が確認されるまで彼女の涙は止まらないだろう。
狼狽する咲良は気の利いたことを言えずにいたが、それに気付いた小喬が見かねて声をかけてくれる。


「大丈夫。小春ちゃんなら絶対に元気だよ!でも、後でお説教だからね。お姉ちゃんをこんなに心配させて!」

「小喬様…そうですよね。城内にいらっしゃるなら必ず誰かの目に止まるでしょうし、きっと…」

「そうそう!ほら、お姉ちゃん、泣かないで。もしかしたら小春ちゃん、元気になって飛び跳ねてるかもしれないよ」


それが気休めの言葉だと分かっていても。
小喬の明るい笑顔が、未だ涙し続ける大喬を微笑ませた。
互いに支え合って成長した、仲良しな姉妹の絆の深さを感じる。
懐紙を取り出した尚香も、ほっとした表情で大喬の涙を拭っていた。


(本当、どうしちゃったんだろう…、どうしてこんなことに…)


病に伏せる小春の身を案じた家臣が部屋を移動させたとも考えられるが、大喬に断りも入れず実行するはずがない。
では、小春は消えてしまったのだろうか。
有り得ない…とは思うが、咲良はぶるりと身震いする。
頭では架空の物語と決め付けていても、どこか否定しきれない自分が存在しているから。
嫌なことばかり想像し、不安を大きくしてしまった。
怖くてたまらない。
…こんなときこそ、傍にいてほしいのに。

そう、咲良が強い想いを抱いた時だった。
人垣の中から、「きゃあああ!」と夫人達の無数の悲鳴が響き渡る。
尚香は反射的に其方へ駆けていくが、不思議なことに敵と思しき者の姿が見えなかったのだ。

そもそも、この部屋は入り口も厳重に見張られ、それ以前にまだ城内への敵衆の侵入は無い。
密かに紛れ込むことさえ難しいだろうに。


 

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