運命に抗う力



ところで、遠呂智は今、何処まで世界を統合しているのだろう。
ゲームでは、三国で最初に狙われたのが蜀だったはずだ。
そして孫呉…後はあっという間であろう。
今はまだ、城内は安全なのだろうが、城下町にある蘭華の店の楽師達や、城の何処かに居る悠生が心配だった。
しかしながら、無事を確かめる術も無ければ方法も思い付かない。


「落涙!待っていたわよ」

「尚香様…」


ゲームでは常々目にしていた鮮やかな衣装だが、武装した尚香を見て、咲良はぎこちない表情を浮かべることしか出来なかった。
尚香の後ろからはざわめきが聞こえる。
辺りを見渡せば、広い一室には神妙そうに語り合い、孫呉のこれからを案ずる大勢の女性が身を寄せ合っていた。


「みんな、落ち着いて!あなたたちの安全は私が保証するわ!」


遠くまで響き渡る高い声で、尚香は皆を元気付けようとする。
尚香こそ守られるべき人間だと言うのに、彼女は自ら夫人達の護衛を買ってでている。
強くて、優しい姫君。
このような時でも笑顔を絶やさない尚香に、咲良は尊敬の念を抱くばかりだった。


「落涙、あなたも奥で休んでいなさい?」

「は、はい。ありがとうございます…尚香様。あの、ご迷惑かもしれませんが私…、弟のことが心配で…」

「そうね、私も黄悠のことは気にしていたのよ。すぐに人を向かわせるわね」


力強い尚香の言葉に、やっと咲良も肩の力を抜くことが出来た。
この混乱の中、捕虜とされる子供一人のために割ける人員など無い。
分かっていても、やはり身内を、自分の大切な人の無事を一番に願ってしまう。
だから周泰も、孫権の傍を離れることは決して無いのだろう。


「…てっ…、くださ…離して…!」


途切れ途切れに聞こえる女性の嗚咽する声を耳にし、咲良も尚香も驚いて振り返った。
ただならぬ事態を想像し、どきりとする。
夫人が避難して来ただけとは到底思えなかったのだ。
此処へ来ることを拒絶する泣き声だったから。


「お義姉様!?」


咲良が知る限り、尚香にお義姉様と呼ばれるのは、彼女の兄・孫策の妻であった大喬ぐらいだ。
目に涙を光らせ、小喬に支えられながらやっとの思いで此処まで来た大喬は、尚香と咲良をの姿を見て、堪えきれずにその場に崩れ落ちる。


 

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