あなたのもの



「黄悠殿のお姿はもう拝見なされましたか?」

「いっ、いえ…なかなか見つけられなくて…」


ふふ、と陸遜は微笑む。
どうやら今日の彼は機嫌が良いようだ。
本当に…嬉しい、のかもしれない。
陸遜は同じ国にありながら再会出来ずにいる姉弟を哀れと思い、日頃から気にかけ、手を尽くしていてくれたらしい。
理想とは程遠い結果だろうが、直接顔を合わせずともお互いの姿を認識出来る距離にある、僅かな前進であれども、陸遜は自分のことのように喜んでくれたのだ。


「では、周瑜殿をお捜しください」

「周瑜様を?分かりました。えっと…」


周瑜の名が出てくるとは思わなかったが、咲良は素直に美周郎を捜すことにした。
地味という言葉とは無縁の男だ、少し辺りを見渡すだけで目的の周瑜を発見出来た。
だが、珍しくも周瑜は誰とも話さず、隅の方に腰を下ろし、一人で酒を飲んでいる。
そう言えば、小喬の姿も見えない。
こういう賑やかな場を嫌うような人ではないとは思うが、…咲良の気持ちを知っていた小喬は、この婚約を受け入れていないのかもしれない。


「周瑜殿の隣に、縮こまって俯く方がいらっしゃるのですが…」

「え?」

「ここからではよく見えませんね。ですが周瑜殿には事情をお話し、落涙殿のためならと快諾していただいたので、上手く導いてくださると思います」


人々の頭の隙間から、ちらちらとのぞいてはいたが、改めてじっと見てみれば、確かに周瑜の隣には俯く子供の姿があった。
しかし…着ている服が女物にしか見えず、あれが本当に弟かも分からない。
咲良は早く顔を確認したくて、ただただもどかしかった。
此方が座っていてはよく見えないのだが、立ち上がって勝手に歩き回るわけにもいかないのだ。


「実は…つい先程、黄悠殿に宴が落涙殿の婚約を祝うものと知られてしまいましてね。此の場へ来るのを拒まれていたのです」

「そうだったんですか…また、ご迷惑を…」


拒まれても仕方がないだろう、悠生は咲良と決別すると心に決めていたのだから。
そんな悠生を説得したのは尚香だと言う。
女装をすれば落涙にも気付かれぬと言い聞かせ、めいいっぱいお洒落をさせたのかもしれない。
弟と尚香が親しい仲と言うことは聞かされていたが、彼女が一役買ってくれたことは咲良も嬉しく思えた。


 

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