あなたのもの



(私を庇って…小春様は…、なのに、私ばっかり幸せを与えられて…)


小春のことを想うと、ずきずきと胸が痛んだ。
心も体も大人に近付く今の頃が、子供には一番大切な時期のはずだ。
大喬だって、愛娘の成長を唯一の楽しみに生きていたことだろう。
可愛い小春が苦しんでいるというのに、宴を楽しみ騒ぐことなど…出来ようはずがなかった。


「落涙。今日ぐらい、悩み事は忘れてしまいな。うちの娘達はこの日のために、あんたに教えられた音曲を練習していたんだよ」

「蘭華さん…そう、ですよね!大好きな音楽をたくさん聴けるなら…、」


悠生もきっと、喜んでくれる。
周泰には悪いが、今日は弟のことしか考えられないだろう。
…これで、最後にするから。
僅かな間でも、悠生と同じ空間で時を過ごすことが出来るなら…それだけで、私は嬉しい。



━━━━━



「今日は周泰と、私の養女である落涙の契りを祝する目出たい席故、皆、大いに盛り上がってくれ!」


宴が始まる前から酔っていたらしい孫権は、顔を赤くしながら皆へ声を浴びせた。
元来、孫呉に暮らす者は宴好きのようだ。
ずらりと並べられた豪華な料理や上等な酒を目の前に、はしゃぐなと言う方が無理であろう。

次々に祝いの言葉を戴いても、賑やかな場の空気とは裏腹に、咲良はがちがちに緊張していたため頭を下げることしか出来ずにいた。
そんな咲良に対し、周泰は感情を乱すこともなく平静を保っている。

気を紛らわそうと、咲良は美しい音曲に耳を傾けた。
蘭華が言った通りに…、咲良が楽師達に教えた現代の音楽を、彼女達が古代中国の楽器で生演奏しているのだ、胸を躍らさずにはいられない。

咲良は宴会場に視線を巡らせた。
陸遜が手引きし、この場に連れられて来たはずの悠生を捜していたのだ。
しかし、大勢の客人の中から小さな弟を捜すのは非常に困難で、徐々に焦りが生じる。

まずは陸遜を呼んでもらおうかと考えた時、酒の匂いが一気に降り懸かってきた。
見上げれば、素敵な笑顔がそこにあった。
目尻は下がり、頬はその赤毛と同じぐらいに真っ赤に染まっている…、孫権は既に泥酔しているようだった。


 

[ 197/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -