昔の夢が蘇る



「なあ、陸遜。俺は落涙に用事があるんだ。ちっと外してくれないか」

「私に聞かれては不味いとでもおっしゃるのですか?」

「そうだ。だから出ていってほしいんだ」


素直に、馬鹿正直に言うものだから、陸遜も言葉に詰まってしまったようだ。
しかし甘寧は至って真面目で、陸遜をじっと見ている。
咲良が好きだった、あの真っ直ぐな眼差しを一心に受けた陸遜は、甘寧の眼力に狼狽えはしなかったが…、再び、軍師の顔が崩れていく。


「思い当たらない訳ではないのです…甘寧殿も、落涙殿を心配していらっしゃったので。今日此処を訪ねられたのは、もしや、黄悠殿に関することでは?」

「な!」

「図星のようですね」


こうゆう、
姓は黄、名は…変換出来なかったが、咲良は初めて耳にする名であった。
その人物が、二人を悩ませている。
陸遜が、そして甘寧が揃って苦い表情を浮かべるのだ。


「…構いません、仰ってください。他言はしません」

「だがよ、陸遜…」

「公私を混同してはいけませんが、私は…小春殿を失いかけ、初めて恐怖したのです。彼女の笑みが二度と見られないかもしれない…そう思うだけでとてつもなく苦しい。落涙殿も、そのような恐怖と戦っておられたのですから」


陸遜にとっての小春とは、国のため、そして家のために必要な、政略結婚の相手…しかし、二人の間には確かな愛情があった。
愛しい人を失うかもしれないという恐怖。
それを自身に置き換えるとなると…咲良は陸遜の言葉の意味を、良いように受け止めてしまいそうだった。

だが、ぬか喜びかもしれない。
本当はもっと違った解釈をしなければいけなかった、のかも…様々な葛藤に揺れる咲良の瞳は、甘寧が差し出した書簡のようなものに釘付けになっていた。



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