切々と響く声



「実は…周泰殿が、落涙殿を妻とするとし、孫権様も寛大な処置をお決めになられたのです」

「え……!?」


咲良は黄蓋の発言に耳を疑った。
全く予想もしなかった事実を、すぐに受け入れることは出来そうになかった。
黄蓋は嘘を付くような人間ではない。
だとしたら、これは確かに真実なのだろう。
自覚した途端、かっと顔が熱くなってしまった。
両手で頬を押さえても、熱は治まりそうにない。

でも…、周泰の考えが咲良には分からなかった。
彼は落涙を救うため、皆の前で宣言してくれたのだ。
そこに愛情が無くても口に出来ること…いや、少なくとも我が身を犠牲にして楽師を助けてくれた彼は、誰よりも心優しかったのだろう。
そうでなければ、説明がつかない。
妻にしたいほど、好かれているなどと…、そんなこと、考えるはずもなかったのだ。


「将軍の妻であれば、罪は問われないゆえ…。落涙殿は老いぼれの女官ではなく、孫呉の将軍の妻となられた」

「黄蓋様…私は…っ…」

「さあ、わしがお送りいたしましょう。もう、不自由な暮らしを強いられる必要も無い。貴女のようなお方は、幸せにならなくては」


無骨な手を差し出されたが、握り返すことを躊躇ってしまう。
勿論、黄蓋を拒絶している訳ではない。
この手を握り返しては、今までと同じ生活を送ることは決して叶わない。

そして、周泰。
彼にだって、これから妻となるべき女性が現れるはずだった。
その人と愛し合い、授かるはずだった子供も、子孫も…全てが消失してしまうのだ。
周泰の人生を、運命を狂わせた責任を取ることなど、自分には出来る気がしなかった。


(もう…駄目だなぁ…私は、自分のことばかりだね。まずは周泰さんにお礼を言って…謝らなくちゃ…)


早く、あの寡黙な男に、伝えなければ。
未だに心の整理が出来ていない咲良だったが、意を決し、しっかりと黄蓋の手を握った。

楽師の落涙は、周泰将軍の妻となる。
信じられないが、一時の恋人とは違うのだ、もっと重い意味が生まれる。
この世界の者と契りを結ぶなど、とても恐ろしいことのように思えた。
歴史に取り返しの付かない歪みが生じ、この先の未来がどのように変化するか…、
ゲームのストーリーを、史実を知識として持っている咲良にも分からなかった。



END

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