幸せを盗る




まるで軍議の最中であるかのように、重々しい空気が漂っていた。
陸遜が駆け付けた時、その場には孫権を始め、周瑜、甘寧、凌統、周泰の姿があった。
珍しくも、普段は呂蒙に引っ張られて嫌々軍議に参加する甘寧が、ひどく不機嫌そうな顔で突っ立っている。
逆に、呂蒙の姿が見えないのだが、彼はここ数日の間に体調を崩し、伏せっているのだった。


「遅参し、申し訳ありません」

「構わぬ。お前は我が姪の夫、さぞ困惑したであろう」

「そのようなこと…」


孫権は深い溜め息を漏らし、目を伏せた。
此処に居る誰もが皆、困惑していることは間違いない。
誰一人として、落涙を罪人に仕立てあげたいとは思っていないのだから。


「おい、誰が落涙を疑ってやがるんだ!?あんな鈍くさい奴に何が出来るって言うんだよ!」

「落ち着けよ、あんたが騒いだところで落涙さんの立場が変わる訳ではないんだ」


甘寧の言い分は最もであろう。
彼を宥める凌統も、苦虫を噛み潰したように表情を曇らせる。
だが、この部屋に居る面々は、落涙を一度は幻術師と疑い、監視を付けた過去があるのだ。
疑いは晴れたかに思えたが、疑念が完全に消えた訳では無い。

凌統が子供のように喚く甘寧を押さえつけている間、周瑜が事の次第を話した。
異変に気付き、この中では最も早く惨状を目にした周瑜は、小春の応急処置をしながら、魂が抜けたように呆然とする落涙と会話をしたそうだ。


「落涙殿は自ら、私のせい…と口にしたのだ。彼女も相当参っているようで、それ以上を話してはくれなかった」

「侵入者の形跡は?」

「それなのだが…窓や戸には錠がかけられていた。完全なる密室であった訳だ」


落涙が疑われる条件は見事に揃っていた。
さらに彼女が幻術師である可能性は否定出来ず、身の潔白を証明することは難しい。
真犯人の目的も分からず、闇に消え、このまま落涙に罪が擦り付けられてしまう。

だが…本当に、落涙が何もしていなくとも、自身の命を捨ててでも、姫を守らなければならない現実を、うやむやにしてはならない。
女官や、使用人であれども同じことだ。
傍に居ながら小春に傷を負わせた落涙を許せば、孫呉の将軍の夫人達の護衛を任された者達に、示しが付かないのだ。


 

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