心を喰らう蛇



「実はね、私も久遠劫の旋律を求めていたのよ。仙人達が必死に存在を抹消しようとした、破滅の旋律、その詩をね。鍵である落涙さん、そしてあなたの大切な悠久…、暫くあなた達を見張っていたんだけど…、私だけが、決定的な間違いに気付いたの!」

「間違い…?」

「ふふ、そうよ。その旋律は遠呂智様が力を増幅させるだものだとばかり思っていたわ。今頃、仙人達は慌てているでしょうね。久遠劫の旋律に込められた意味は揺籃歌…つまりね、遠呂智様の復活を妨げる調べだったんだから!」


カッ、と妲己の血の色をした目が見開かれる。
濃い血の色をした妲己の瞳が輝くと、彼女を取り囲むようにして浮いていた玉が、無数に降り懸かってきたのだ!
視界に捉えた瞬間、とっさに交わすことが出来るはずもなく、動けずにいた咲良を小春が思い切り突き飛ばす。
背を押されて床に転んだ咲良は、小春の短い悲鳴を聞き、血の気が引いた。


「小春様!!」

「っ…うぅ……」

「私を庇うなんて…!どうして…本当なら、私が守らなくちゃならないのに…」


ぬるつく血にまみれた玉が、ころころと転がっていく。
それが、小春の肩に傷を付けたのだ。
咲良はショックのあまり、意識が途切れそうになったが、必死に小春の手を掴み、彼女を抱き起こそうとする。
幸いなことに、出血はそれほどでも無かったが、小春の顔は苦痛に歪んでいた。

久遠劫の旋律…咲良に演奏させないため、直々に太公望が、フルートを破壊するに至った。
そのような仙人の行動があったからこそ、妲己も旋律が遠呂智にとって都合が良いものだと考えていたのだろう。

だが、それが誤りであった。
遠呂智の力を失わせる子守歌であった。
事実にいち早く気が付いた妲己は、小春と咲良が旋律について語り合っていることに気付き、強硬手段に出たのだろう。
旋律を知る小春が、奏者である咲良に内容を教えようとしていたから。


「あら、ごめんなさいね?あなた達、邪魔者になってしまったの。だから、苦しませずに死なせてあげる!」

「や…やめ…!!」


透けるように白い手が、高く振りかざされた。
殺されてしまう。
どうすることも出来ずに、咲良は腕の中でぐったりとする小春を強く抱きしめた。


「……、どうして!?」


妲己の声が怒りに震えている。
何事かと恐る恐る顔を上げた咲良は、目の前に、見覚えのある後ろ姿を確認した。
以前は、あまり良い印象を持てなかった…猫毛のように、柔らかそうな金色の髪。


「いったいなんなの!?太公望さん、あなたが現れるなんて聞いてない!」

「妲己よ、それ以上の手出しは無用。早急に立ち去るが良い。春の娘は、恐怖により記憶を封じ込めてしまうだろう」


前回とはまるきり状況が違うではないか。
夜道で咲良を襲った太公望が、今はこうして二人の盾になっている。
つまり…太公望も、旋律の本当の意味に気が付き、遠呂智の復活を妨げる存在である咲良を救いに来たのだろうか。


 

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