確かなる幸福



「あ、あの……」

「…分かってるだろ、落涙。俺は…」


どくん、と鼓動は速まる一方で、咲良は恥ずかしさのあまり俯くが、甘寧は許さない。
頬に手を添えられ、逃げることも、視線を逸らすことも出来なかった。


「あんたに幸せにするのは…俺ってのは、嫌か?」

「っ……」

「嫌だって言われても…俺は諦めが悪いからな」


幸せになってほしい、と甘寧は咲良の幸福を願ってくれた。
その言葉を与えられただけで、咲良は心からの幸せを感じたのだ。
だが、甘寧は言葉だけではなく、幸せそのものを与えたいのだと言う。


(…こんなにも…想ってくれるんだ…)


応えても…、良いのだろうか。
こういったことには不慣れなため、咲良はどう対応して良いかも分からない。
ただ、咲良は確実に、愛を与えてくれる甘寧を好いている。
此処で甘寧の深い愛情に包まれ、黄蓋が言うような幸せを手に入れて…蜀に居る悠生のことを忘れ、生まれ育った故郷を捨てて。
彼の優しさに甘えてしまえば、辛いことなど綺麗に無くなるだろう。
だが、蜀に暮らしたいと願っている悠生との再会が叶わないままではいたくないし、諦めたくはなかった。


「甘寧!此処に居たのか!全く、なかなか戻らないと思ったら…」

「げっ!おっさん!?」


予告もなく響き渡った呂蒙の声に、びくりとした咲良はとっさに手を離した。
仕事を放り出して執務室を抜け出した甘寧を捜しに来たらしい呂蒙は、真っ赤な顔をして俯く咲良を見ると、気まずそうに顎を撫でる。


「…すまん、邪魔をしたようだな。だが甘寧…他に大事なことがあるのなら、俺の仕事を手伝ってもらわなくても良いのだぞ」

「悪い悪い!休憩のつもりが長居しちまったぜ。落涙、話の続きはまた今度な」


甘寧は両手を合わせて謝ると、呂蒙の元へ駆け寄っていく。
根っからの猛将である甘寧が、仕事に真面目に取り組んでいる姿など想像しにくいが、彼らの話を聞くと、甘寧自ら呂蒙の手伝いを申し出たようにも受け取れる。
まさか…と咲良は最悪の事態を想像し、弱々しく声を震わせた。


 

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