確かなる幸福



「好きなこととか…嫌いなものとか、何でも良い。俺に教えてほしい」

「……、」


まるで子供のように、知りたいことだけを繰り返す。
甘寧の葛藤や戸惑いがありありと伝わってきて、でも少しだけ声を震わせている甘寧が可愛く思えて、咲良は笑った。


「私の…本当の名前は、咲良といいます」

「咲良…?」

「はい…、変わった名前でしょう?」


ぼんやりと夢を見るかのように名を呟いた甘寧に、咲良はただ微笑みかけた。
ずっと、隠していた本名ではあるが…不思議と打ち明けることに抵抗は無かった。
すると、甘寧は膝の上にあった咲良の手を握り、ぎゅっと力を込めるのだ。
そして、彼は初めて、咲良から目線を逸らした。


「その名は呼べねえな…照れずにいる自信がねえ」

「落涙で構いませんよ。落涙の名前は、私の大切な人が付けてくださった、大切な名前ですから…」


どきどきしていることを、知られないように…、咲良もまた俯いて、ぴったりと重なる手を見つめた。
だが甘寧は、咲良が口にした"大切な人"という言葉が気になったらしい。
手を痛いぐらいに握られてしまい、咲良は思わず眉を寄せる。


「…その骨の男か?あんたの首にぶら下がっている…」

「え?違いますよ!私の名前を付けてくださった人は女性です。この遺骨は…彼女の恋人のものなんです」


感情を押し殺して問いかけた甘寧は、咲良の返答にぎょっとしたようである。
咲良が服の中に隠していた遺骨の首飾りを取り出すと、太陽光に照らされて、その白さが際立って見えた。


「彼女は、私の一番の親友なのですが…訳あって遺骨を私に託されたんです。私はこの遺骨の方にお会いしたことはありませんし…」


貂蝉が大事にしていた、呂布の遺骨である。
彼女は何も言わずに店を出ていってしまって、今は咲良が遺骨を守っているのだ。
いつか貂蝉に再会する日まで、咲良は呂布と共にあることが役目と思っている。

勿論、そこまで甘寧に打ち明けることは出来ないが、何やら誤解していたらしい彼は、安心したように胸を撫で下ろした。


「俺はてっきり、あんたが死んだ恋人を未だに引きずっているのかと思っちまった」

「ふふ…そんな健気な子に見えましたか?」

「……良かった。これで心置きなくあんたを口説ける」


再び、視線が合わさって、咲良は笑顔を浮かべる余裕を失ってしまった。
心まで絡め取られてしまいそうな、真っ直ぐな瞳…
握られた手、頬や胸の奥までも、どんどん熱くなっていく。


 

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