いつもこの音を
「恐らく、花の木を使って作られたものだろう。多く見かけるようなものではない」
「花の木で…それはとても素敵ですね!」
可愛いものが好きな咲良にとって、花の木から生まれた笛と聞かされれば、魅力を感じずにはいられない。
咲良が目を輝かせると、周瑜も少し安心したようだった。
「実は…その笛は、孫策の形見なのだよ」
「え?孫策様が、笛を…?」
「はは、不思議な話だろう?武芸一筋だった孫策が、何処でこのような笛を手に入れたのかと」
すっと目を細めた周瑜は、親友との懐かしい思い出を懐古し、小さく笑んだ。
だが、孫策の形見である大切な笛を咲良に渡そうと言うのだから、プレッシャーも感じてしまう。
周瑜の期待に応えることが出来なかったら、と咲良は始める前から後ろ向きな考えを持つ。
「生前、孫策は私に笛を渡し、"この笛を奏でられる人間が現れるまで預かっていてくれ"と言ったのだよ。初めは意味が分からなくてね、だが、試しに私が吹いてみても…音は鳴らなかった」
周瑜は実際に、組み立てた笛を持って息を吹き込むが、確かに、すうっと空気の漏れる音が響くだけである。
この笛は、奏者を選ぶと言うのだろうか。
周瑜ほどの人間であっても手に負えないと言うのに、自分のような小娘にどうこう出来る代物では無いだろう。
「君が笛を無くしたと聞いて、真っ先にこの笛のことを思い出した。きっと、君の手に渡ることこそが定めだったのだ」
「そ、そんな…買い被りすぎでは…」
「騙されたと思って、どうか…君の音を聞かせてほしい」
そう言って笛を差し出され、咲良は困惑しながらも受け取るが…すぐに構えることは出来なかった。
周瑜の気持ちに、応えられるだろうか。
…この笛は、咲良の想いに応えてくれるだろうか。
すると、咲良が悩んでいることを察したらしい小喬が、にっこりと笑って言葉を投げかける。
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