いつもこの音を




小喬から、「落涙ちゃんにお話があるの!」と女官を通じてお誘いの言葉を受けた。
咲良は初めこそ喜んだが、周瑜の邸を訪ねるようにと言われて、身構えてしまう。


(これは…小喬様じゃなくて、周瑜様に呼び出されたんじゃ…?)


また何か仕出かしてしまっただろうかと、咲良はここ数日の行動を思いだそうとするが、特に可笑しな振る舞いをした覚えは無い。
二人を待たせる訳にもいかず、咲良は急いで服を着替え、周瑜の邸を訪ねた。

邸に通されたとき、まず出迎えてくれたのは小喬だったが、周瑜もわざわざ自らの足で出向き、爽やかな笑みを見せた。
数日前、咲良が夜道で何者かに襲われ、笛を失ったことは周瑜の耳にも届いていたらしい。


「落涙ちゃん!あのね、周瑜さまがすごく落涙ちゃんのことを心配していたんだよ?笛が壊されちゃったって…怖かったよね?」

「ありがとうございます、小喬様。私は大丈夫です。周瑜様も…ご心配をおかけしました」

「いや、元気そうで何よりだよ。だが君が黄蓋の女官になっているとは思わなかった」


二人がこれほど心気にかけてくれているとは思わず、咲良は感激してしまう。
周瑜は落涙の演奏を評価していたためか、咲良が楽師を辞めて女官として働いていることをとても残念がっていた。


「君ほどの楽師がどうして女官になる必要がある?新たな笛を買う資金が無いのならば、私に一言声をかけてくれれば良いものを」

「ありがたいお話なのですが…、私は、他の笛で演奏をする自信が無かったのです。あの笛は…特別なものでしたから」


咲良が初めてフルートに触ったのは、小学生の頃であった。
笛を習うようになり、いつしか音楽にのめり込み、中学校に入学した際に、両親がフルートをプレゼントしてくれたのだ。
それから、ずっと一緒に居た相棒である。
落涙の音は、フルートだから生み出されたものであり、新たな笛を得たとしても…皆に受け入れられた旋律は、変わってしまう。


「では落涙殿、私の我が儘を聞き入れてくれないか?私は君の才がこのまま埋もれいくことは耐えられないのだ」

「我が儘…ですか?」

「ああ。私の笛を君に与えたいと思う。小喬、例のものを」


周瑜に頼まれ、小喬は「はーい」と可愛らしく返事をし、一つの箱を持ち出してくる。
視線で促され、咲良が卓に置かれた箱を開けると、三つに分解された笛が収められていた。
材質はなめらかな木製で、周瑜が丁寧に手入れしていたのか、ほこりも被っていない。


 

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