いつもこの音を



「あんたは、落涙さんを幸せにする自信が無い。だから、本心を伝えられない。その気持ちが遊びじゃないからな」

「凌統……」

「俺さ、正直あんたが幸せになるのは納得いかないんだけど、あんたと落涙さんがくっついたら…良いかもって思うよ」


その言葉に、はっとさせられた。
凌統は、落涙の幸せを望んでいる。
それは甘寧も同じだが、決定的に違うことが一つあった。
彼女と共に、幸せになりたいと思うのだ。

初めて、本気で人を慕うようになった。
真っ直ぐな瞳が好きだと笑った、落涙を。
愛しいから、大切にしたいと思う。
だが、些細なことで涙を流す彼女は脆すぎて、扱いに困ってしまうのだ。
甘寧は彼女を傷付けた過去があり、二度と同じ過ちは繰り返さないと誓ったものの、何がきっかけで、落涙を壊すこととなるかは分からない。

だから…、甘寧は恐れていた。
彼女の中に後一歩踏み込むことを躊躇し、手を伸ばせずにいる。
乱世に生き、常に死と隣り合わせにある自分が、以前にも想い人を失ったという彼女を、果たして幸せに出来るのだろうか。


「…らしくねえ、よな」

「ああ、気持ち悪いっぐらいだっての。そうこう悩んでいる間に、他の男に奪われても知らないぜ」

「はっ、その通りだ。よっしゃ、これから落涙に会いに行ってくる!あいつのこと、もっと知らなくちゃならねえんだ」


好きだと告げるには、まだ勇気が足りない。
だが、互いを知るにはいくら時間をかけても良いだろう。
彼女のことを沢山、知りたいと思う。
いつの日か、落涙の口から真実が聞けることを、甘寧は切に願った。

ありがとな、と聞こえないほど小さな声で呟けば、凌統は驚いたような顔をしたが、これまた素直にどういたしまして、と返すのだった。


「あ。そう言えば今日、小喬様が周瑜殿の邸に落涙さんを呼ぶって話していたような…」

「はあ!?んだよ…それを先に言えよ…」

「あの人には俺だって勝てる気がしないって!」


まだ、凌統の他愛も無い言葉に笑える余裕があった。
しかし甘寧は安堵するあまり、油断していたのだ。
遠く離れた戦場から帰還した今、同じ建業城に居るのだから、落涙に悪い虫が付こうとも、飛んで行って追い払うことが出来ると、信じきっていた。


 

[ 151/421 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -