鼓動を感じて



「呂蒙殿!どうされたのですか!?呂蒙殿…」


うつ伏せに横たわる呂蒙を抱き起こし、指を当て、脈拍や呼吸の有無を確かめる。
どちらも、微弱であった。
背筋がすっと凍るようだった。
呂蒙が居なくなる?
今、貴方を失っては……、戦のことを考えるまでもなく、呂蒙の存在が無くなると思った途端、陸遜は経験したこともない、信じられないぐらいの恐怖を感じた。


「う…ぅ、陸遜か…?」

「呂蒙殿ッ…!」

「すまない…思ったより疲労が蓄積していたようだ…はは、俺も年だな」


小さく唸りながら、目を覚ました呂蒙は、自らの体勢や陸遜の表情を見て、申し訳なさそうに笑った。
長く戦場に身を置き、無理がたたって倒れたことを自覚していても、呂蒙はその疲労が後に重い病に繋がることまでは、理解していないのだ。

陸遜は唇を戦慄かせ、子供のように呂蒙の腕にしがみつく。
生まれながらに与えられた立場上、幼い頃から大人と対等に生きてきた陸遜だが、まだ子供の域を脱していないのである。

それなのに、どうして涙が出ない。
胸はこれほど痛んでいるというのに、涙腺は滴を溢れさせまいと頑なに拒んでいるかのようだ。
これが、泣くことを決して許されなかった陸遜の、悲しい姿だった。
泣くべき時に泣けないからこそ、陸遜の表情は泣き顔よりも痛々しく歪んでいた。


「私などの身を案じる前に、ご自身を労ってください…!!」

「陸遜、本当にすまなかったな。だがお前こそ、小春様や落涙殿に顔も見せず…俺のことを言えないだろう?」

「落涙殿……、」


彼女は、呂蒙が病に倒れることを予期していたのではないか。
偶然と言えば偶然かもしれない。
だが、呂蒙を失うことに恐怖を感じた陸遜は、彼女が何らかの確かな答えを持ち合わせた上で発言した…、どうしても、そう思えてならなかったのだ。


(死の淵に立つと体を透過させる姉弟…、落涙殿にはやはり、秘密があるのでは…)


彼女の性格が全てを物語っているが、それが孫呉に災厄を齎すものではなくとも、放っておくには不安が残る。
しかし今は…、呂蒙の傍に居たいと思った。
何も言えないまま、俯いて、陸遜は呂蒙の服の袖を握り締める。
初めは戸惑いを見せていた呂蒙も、ついには無骨な手で陸遜の肩を叩く。
「大丈夫だ」と……だが初めて、誰より信頼する呂蒙の言葉を、素直に受け入れることが出来なかった。



END

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