鼓動を感じて



「ところで、落涙さまのお会いしたい方とは…?」

「私も、元気なお姿を見たいだけなのですが…呂蒙様です」


呂蒙に会いたいと言うのが意外だったのだろう、小春は咲良の考えを察せなかったようだが、先に呂蒙の執務室を案内すると口にする。
「案外、伯言様と一緒にお仕事をなさっているかもしれません」と言う小春は、少しばかり緊張しているようだった。
そんな小春を可愛らしいと思いながらも、咲良は呂蒙の身を案じ、言いようのない不安を胸に募らせていく。


(呂蒙様…、私が心配したって、どうにもならないけど…)


樊城の戦いが、咲良の知る歴史通り、孫呉の勝利で幕を下ろした。
そうなると、あまり考えたくはないが…、呂蒙の死期が迫っているのである。
深い恨みを抱いたまま処刑された関羽の呪いによって、呂蒙は酷い死に方をしてしまうのだ。

呂蒙がいつ頃、体調を崩し始めるのかは分からない。
だからこそ、一目でも、元気な姿を見ることが出来たら…気休めにしかならなくても、安心出来るから。


「小春様?」


ぴた、と突然小春は足を止める。
どうしたのか、と思い顔を上げたら、此方に向かって歩いてくる青年…陸遜が、咲良の目にも飛び込んできた。

最後に言葉を交わした夜と、変わらない。
だが、戦場にて呂蒙の背を見続けた陸遜のことだ、一回りも二回りも成長したのであろう。


「伯言さま…!」

「ああ、小春殿、落涙殿。お久しぶりです」


何も、変わっていない。
優しげな眼差しも、丁寧に拱手をする姿も。
陸遜は柔和に微笑み、小春を、そして咲良を見つめていた。

念願叶って陸遜と対面し、小春は感極まって涙目になっているが、すぐに感情を押し隠す。
咲良にも、彼女が冷静に事を済ませようとしているのが分かった。


「伯言さまのお帰りを待ち望んでおりました。ご無事で、何よりです」

「ええ。心配をお掛けましましたね。私も…こうして小春殿に会うことが出来て、嬉しく思いますよ」


相手を労り、慈しむ、陸遜の素直な優しさ。
その言葉だけで、小春の不安や寂しさは綺麗に吹き飛んでしまうのだろう。
愛しい人に与えられたものは、何にも代え難い…、現に、小春を安堵させ、暫くお目にかかれなかった可愛らしい笑みを引き出したのだから。


 

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