鼓動を感じて



たんと軽く床を蹴った甘寧は、窓から飛び出し、腰に括った鈴を響かせて夜の闇へと消えていった。
その後ろ姿が何故か物悲しく見えて…、夢の中に居ても、彼の鈴の音が聞こえてくるようだった。




「落涙さま……」

「……、へっ、はい?小春様!?」


建業城の朝は清々しい。
戦場から皆が帰還したにも関わらず、やはり早朝ともなると城内は静寂に包まれていた。
小鳥のさえずる声を聞きながら、いつもと変わらず、洗濯物を洗っていた咲良だが、其処に予告もなく現れた小春に驚き、素っ頓狂な声をあげた。

こんな朝早くに姫様ともあろう人が、一人で出歩くなんて。
しかも、小春は見るからに沈んでいる。
婚約者である陸遜と再会したのだから、もっと嬉しそうな顔をしていてもおかしくないのに。


「そのままで。落涙さま、少し…お話を聞いていただけませんか?」

「そ、それは構いませんが…」


小春は立ち上がろうとする咲良を制止し、そのまま地べたに腰を下ろしてしまった。
咲良は気にしないが、普段の彼女なら、はしたないと思われることは絶対にしないはずだ。
昨晩、陸遜と小春の間に何かがあったのは間違いないが、果たして尋ねても良いものだろうか。


「今朝、女官が噂話をしているのを耳にしたのですが…、昨晩、落涙さまのお部屋から甘寧将軍が立ち去るのを見掛けたと言う者がおります。落涙さまは…もしや甘寧将軍と…」

「えっ!?ちちっ、違います!確かに甘寧さんは部屋を訪ねられましたが…」


てっきり陸遜の話をされると思っていた咲良は、甘寧の名を出された途端に、昨晩の出来事を思い出してしまい、かっと顔を赤くする。
困惑や動揺を隠しきることなど到底、出来そうにない。

抱き締められはしたが、別に疚しいことをした訳ではないと自分に言い聞かせるも、とても他人に話せる内容では無い。
それに、部屋の中を目撃されたのではないから、噂はどんどん一人歩きするだろう。
妙な誤解をされては困るので一応否定はするが、小春はつぶらな瞳を向け、じいっと咲良を見つめている。


「もう…甘寧さんが、勘違いさせるようなことをするから…。あの人は、私の怪我の容態を見に来たのだと思います。以前から、気にかけていてくださったんですよ。ですから、別に何かがあったという訳では…」

「良いのです。落涙さまの問題に、私が口を挟むことは出来ません。ですが…もし、甘寧将軍が宴を抜け出してまで落涙さまに会いに行ったのだとしたら、とても…羨ましかったのです」

「羨ましい?私がですか?」


こくん、と小春は小さく頷いてみせる。


 

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