月の光と共に



「ずっと、言いたかったんだがよ」

「私に…ですか?」

「ああ。俺は、回りくどいことが嫌いだ。だからはっきり言わせてもらう」


そのままの体勢で、甘寧は口元を咲良の耳に寄せる。
ふっと熱い吐息が触れ、肩が震えた。
…彼は、鈴の甘寧と呼ばれる男。
無双のキャラクターの一人ではなく、同じ世界に生きている甘興覇、その人だ。

顔が見えなくて良かったと思ったのは咲良だけではなく、甘寧も同じだったようだ。
彼の鼓動は、先程よりもずっと速い。
まさか本当に、甘寧とこんなことになってしまうなんて…、まるで夢を見ているかのようだった。


(知らなかった…。私はまだ、甘寧さんのことを、何も知らない…)


ぎゅうと抱き締められると、胸の真ん中にある呂布のペンダントが、二人の間でその存在を主張する。
不自然な硬い感触に、甘寧が小さく息を呑む。
これが咲良の大切なものであると、彼はよく知っているはずだ。
だが、何を思ったのか寂しげな表情をした甘寧は、咲良の肩に手を置き、小さく囁くようにして、想いを告げた。


「俺は…」

「……、」

「あんたにだけは、幸せになってほしいと思う」

「幸せ、に?」


どんなに情熱的な言葉を与えられようとも、きちんと受け止めようと身構えていた咲良は、予想外の台詞に目を瞬かせる。
それが、甘寧の本音だったのだろうか。

守ってやるとか、幸せにしてやる…、そんな大それたことではなく、ただ単純に、幸せになってほしいと願ってくれる。
それが甘寧の心からの言葉なのだと知ったとき、咲良は今までに無いぐらいの、喜びを感じられたのだ。
自然と口元をゆるませた咲良は、甘寧の手を握り、ぎゅっと力を込めた。


「ありがとうございます。甘寧さんのためにも、頑張って幸せになりますね」

「…おうよ。あんたが笑ってりゃ、俺は、そうだな…嬉しいんだ」

「甘寧さん…、」


もしも甘寧に、「愛している」と言われていたら、自分はどんな顔をしたのだろう。
笑顔と涙を浮かべて…いや、困り果てて俯いてしまったかもしれない。
好意を寄せてくれても、咲良には愛情を伝える方法がよく分からないから。

好きに、なろうとしていた。
真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐな心を向けてくれる甘寧のことを、咲良はこのとき初めて真剣に意識したのだった。



END

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