血まみれの胸



「しっかしまあ…この子供、どことなく落涙さんに似ていません?」

「え…」


言われてみれば、幼さが残る顔立ちは子供らしいものだが、見れば見るほど…涙する少女、落涙と重なる。

ふと陸遜は、落涙と交わした最後の会話を思い返した。
宴の最中、酒に体調を悪くした彼女は、実は戦場に着いて行きたかったのだと口にし、初めてその胸の内を語ったのである。
理由を問えば、生き別れた弟に再会出来るかもしれないからと…、悲しげに微笑んで。
叶わない望みと分かっていたから、落涙はあれほど、辛そうな顔をしていたのだ。


「姫様、この子供は何処で…」

「戦場から少し外れた道に、倒れていたのよ。ねえ陸遜、この子はきっと、落涙の弟よ!彼女言っていたの…弟を捜しているって…」


目に溢れんばかりの涙を溜め、尚香は救いを求めるように陸遜を見上げた。
落涙の弟、もしくは血の繋がる近親者、それは紛れもない事実であろうが、このままでは…、消えてしまう。
どのような罪を侵していたとしても、少年には、あまりに残酷な仕打ちであろう。
落涙の顔を見ぬまま、尚香の腕の中で…


「…いけません。落涙殿には、会わせてはなりません」

「ど、どうしてよ!?」

「彼は蜀の者なのでしょう?我々とは敵対する間柄。連れ帰るならば、捕虜とします」


信じられない、と尚香は呆然と呟く。
軽蔑されようが卑劣と言われようが、陸遜にとっては、それが正しい選択なのだ。
落涙の実弟であれども、蜀の者を呉の幕舎に連れた、つまり捕らえたとなれば…特別扱いは出来ないのだ。

だが、これは陸遜の個人的な考えではあったが、少年を落涙に会わせることは何としても避けなければならないと、焦りにも似た感情を抱いた。
弟が捕虜となったと聞かされれば、間違いなく落涙は傷付き、悲しむだろう。
城に招かれている楽師が敵国の捕虜に面会するなど、滅多なことがなければ許可出来ない。
だから、彼女に伝えてはならない。
再会を許すことが出来ないのなら、初めから事実を伏せ、隠し通すべきなのだ。


 

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