焦がれる想い




数ある楽器の中、どうしてフルートを選んだの?
お洒落で可愛いイメージがあったから。
だからと言って自分が可愛くなる訳ではないのに、でも、最初は本当に不順な動機だったのだ。

裕福な家庭とは言えないけれど、咲良は十分すぎるほどに幸せだった。
でも、若い内にしか出来ないことなのだからと、両親は文句も言わず、咲良のためにお金を使ってくれた。


(あのフルートは…お父さんとお母さんからのプレゼントだったんだよ)


部屋の中は薄暗く、しんと静まり返っている。
時計が無いから、正確な時間は分からないが、多分、やっと使用人達が起き出すぐらいの刻なのだろう。

うっすらと目を開けるも、眠気が覚めずにぼうっとしていた咲良だが、ふと目線を動かすと…周泰と思い切り視線がかち合ってしまい、思考が一瞬、停止した。


「…え、何で、周泰さん!?いつから其処に…」

「…昨晩から…ですが…」


咲良は慌てながら、周泰が、どうして此処に居るのかと考えるが、周りをよく見ると…自分が寝かされていたのは自室ではなく、病室だったらしい。
彼が椅子に腰掛けている姿を初めて見た。
だが、珍しさに感心する余裕は無かった。

寝顔を見られていたことに気付き、火が付いたように顔が熱くなり、羞恥に耐えきれなくなった咲良は物凄い勢いで布団を引っ張って、中に潜り込んだ。
すると周泰は、意図が分からないと言ったように、不思議そうに問いかけてくる。


「…落涙様…?」

「はっ、恥ずかしくて死にそうです…!寝顔と寝起きの顔って、一番見られたくないんですっ!」

「…そういうもの…なのですか…」


最悪だと思った。
家族にだって、あまり見せたくないのに。
歯ぎしりしていたらどうしよう、涎なんか垂らしていたら…!などと考えれば考えるほど恥ずかしさが増す。

昨晩から、ということは病室にかつぎ込まれてからずっと、周泰は傍に居てくれたのだろう。
それは本当にありがたいのだが、感謝の念より断然、羞恥が勝る。


「…そこまで…お気になさるほどでは…、むしろ…可愛らしゅうございましたが…」

「周泰さん!!フォロー…じゃなくて、慰めになってません!」


可愛いと言われて嬉しくない、訳ではない(だがやはり照れる)。
放っておけばさらに、間違った口説き文句を浴びせられそうだ。
渋々布団から顔を出した咲良は、少し不満げに周泰を見詰めた。
彼の表情は相変わらず変化が無いが、やはり徹夜をしていたせいか、少し疲れているようにも見える。


「でも、ありがとうございました。誰も居てくれなかったら、また泣いていたかもしれません」

「……、昨夜、何が…」

「笛を…壊されてしまいました。理由も分からないんです。本当に、笛を壊すことが目的だったみたい…」


自業自得だと言われれば反論出来ない。
素直に蘭華の意見を聞き入れ、夜が明けてから店を出れば、何もこんなことにはならなかった。


 

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