慰めてくれる



女に興味が無い訳ではない。
ただ、孫権を守るには不必要なだけ。
そのせいで誤解されやすいが、人並みに経験は積んできたつもりだった。

落涙は…、そういう意味では、まだ幼い。
抱き締めた細い肢体も、指先で拭った涙も、知れば知るほど無垢で…罪悪感を否めないのだ。
結局、どうしたいのかと問われれば、恐れ多いがもう少し触れてみたい…、そのぐらい、安易な気持ちでしかない。


「落涙を欲するならば、はっきり言えば良いではないか。だがこれまで、お前が何かを欲したことなど無かったな。私のことを気にしてくれているのだろう?」

「……、それは…」

「私のために…いや、私の存在がお前を縛っていたのならば、すまなかったな」


まさか謝罪されるとは思っていなかったため、周泰は驚き、申し訳無さに押し黙る。
孫権は周泰の幸せを願い、心を鬼にして突き放す覚悟だって出来ているのだ。
命に代えても孫権を守ると、周泰は亡き孫策に誓い、忠実に使命を果たしてきた。
なればこそ、一人の女のために、主を悩ませてはいけない。


「…謝罪には…行きません…。もう二度と…顔を合わせることは無いでしょう…」

「何!?周泰、落涙に会わないつもりか?」

「…これで良いのです…元に…戻るだけです…」


そう、以前と何も変わらない。
出会わなかったことにすれば良いだけの話だ。
落涙を苦しめたまま放り出すのは申し訳無いが、それよりも大切なことが…、周泰には、誰よりも大事な人が居る。


「酷い男だな、周泰は」

「…存じております…」


孫権はきっと、気付いてしまったのだろう。
周泰自身が、頑ななまでに認めようとしなかった、落涙に向ける想いが、子供のように純粋でいて、激しいものであったことを。



 

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