湿った真珠



「…俺は…貴女を間者と疑い…監視をしていたのでは…」

「そんな嘘、つかないでください…周泰さん…私、これからどうすれば良いですか?間者だって思われているなら、お店にだって帰してもらえないんでしょう?」


涙を隠す余裕も無く、思い切ったことを問えば、周泰は眉を寄せ、難しそうな表情をする。
戸惑いを感じさせるその瞳を見ているだけで、現実を思い知らされる。
はっきりと断言されるよりも、酷く悲しい想いをした。
このまま喉が潰れてしまいそうだった。

神様が居るなら、文句を言ってやりたい。
いったい、私と悠生が何をしたと言うの。
ただ、いつものようにゲームをしようとしていただけで、何も悪いことはしていないのに!


「…落涙様…俺は…」

「どうしてですか?どうして…慰めようとするんですか?私が泣き虫だからですか…?そんな優しさ、欲しくないです!周泰さんなんて…嫌いです…」

「……っ、俺は…始めから…違うと思っていました…慰めでは…ない…。信じてくれ…」


苦しげな声を絞り出した周泰は、痛ましそうに顔を歪めながらも、真剣な眼差しを向ける。
咲良はすぐにでも逃げ出してしまいたかったが、周泰は許してくれなさそうだ。


「…貴女が…間者のはずがなかった…。俺の話を…楽しそうに聞く…これほど…純な人が…。申し訳…ありませんでした…」

「もう…謝らないでください…命令だったんでしょう?仕方がなかったんですよね…」

「…いえ…。俺が…泣かせてしまいました…」


悪いのは自分だからと、謝罪の言葉を繰り返す周泰に、咲良は居心地の悪さを覚える。
上手く丸め込まれようとしているのでは?
他人を信じることが怖いから、疑念を抱いてしまう。


「…三日ほど前…護衛の任を…外されました…」

「えっ?」

「…それでも…俺は…自分の意思で…貴女の傍に居たのです…」


思わずかっとなり、咲良は唇を噛む。
それだけは、慰めとは思えない、不可解な言葉だった。
咲良は手のひらに爪を立て、気を紛らわせようとする。
思い切り力を込めたのだが、痛みを感じないほどに興奮していたようだ。

どうして、命令に背いてまで、咲良の傍にいる必要があったのか。
落涙に監視を付ける必要ないとされても、周泰は完全には納得することが出来なかったから?


「…嫌いなどと…仰るな…」

「…ごめんなさい」

「…落涙様…」


濡れた頬に無骨な手を添えられ、長い指先が、そっと目尻に溜まった涙を拭う。
触れられたことに驚き、咲良はびくっと肩を震わせるが、それでも涙は止まらない。
周泰は顔色を変えもせず、何度も何度も涙を拭った。


 

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