春風の愛撫



「えっとね、此処の暮らしには馴れた?」

「はい、お陰様で…皆様がとても良くしてくださるので、感謝しています」

「そっかぁ。何かあったら言ってね?あたし、あんまり外に出ないんだけど、落涙ちゃんの危機には駆けつけるよ?甘寧様とか、ぜぇったい落涙ちゃんのこと狙ってるって!噂でしか知らないんだけどね」


怒ったり笑ったり、くるくると面白いぐらいに表情が変わる。
感情が豊かな小喬の雰囲気に触れていたら、緊張は和らぎ、咲良は少しずつ余裕を取り戻してきた。

甘寧の噂は…今までならすぐさま否定してきたが、噂を真実にしてしまおうと考えた咲良にとっては、慌てて弁明する必要も無かった。


「甘寧さんの評判って、宜しくないんでしょうか…?小喬様は、どう思われますか?」

「んー、将としては強いから孫呉に欠かせない存在なんだけど、殿方としてはどうかなぁ。来る者拒まずらしいし、大切にしてもらえるか分からないよ?」


甘寧の一番になることは難しいのでは、という話だ。
この時代、世継ぎを残すため、側室を何人も持つことは珍しくも無い。
それにかこつけて女遊びをする男など、咲良だってあまり受け入れたくないが。

大喬の場合、孫策の側室という立場であったのだが、小喬は周瑜に娶られてから今まで、一途に愛されている。
そして孫策亡き後も、周瑜は生きていた。
愛しい夫が居て、大好きな姉が居て、小喬は幸せ者だろう。
本当に…、羨ましいぐらいだ。


「…好きに、なろうかなって思ったんです。甘寧さんのことを」

「ええ!?落涙ちゃん血迷ったの!?」

「い、いえ…何て言うか…秘密の話ですから、内緒にしてくださいね?」


相手が小喬だから、彼女が友達のように接してくれたから?
理由はよく分からなかったのだが、咲良はころっと心の内を喋ってしまった。
恥ずかしい話ではあるが、小喬ならば…と深く考えず、ただ重荷を減らしたかっただけなのかもしれない。


「好きになってはいけない人に恋をしてしまって…、どうにか吹っ切れたんですが、たまに凄く虚しくなるんです。だから早く、違う人を想えるようになりたくて…」

「諦めちゃうの?もったいないよ!落涙ちゃんは可愛いんだから、甘寧様と危険な恋に走らなくったって…」

「その人には恋人がいるんです。とてもお優しくて可愛らしいお人…その方を傷つけてまで、彼と結ばれたいとは思えなかったんです」


だから甘寧を選ぶ、となれば本人に失礼だが、咲良が心を寄せることが出来る男性は、甘寧しか居なかったのだ。
この腕の傷が癒えるまで、甘寧はきっと咲良に罪悪感を抱き続けるだろう。
それまでは、甘寧と繋がっていられる…では、その後はどうすれば良いのか、自分の心に嘘をつき続けられるか、急に、不安に襲われた。

小喬は複雑そうに咲良を見ていたが、迷える気持ちを感じ取ってくれたのか、切なげに微笑んだ。


 

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