微かな調べ



弱まる気配を見せない、冷たい雨。
一粒一粒が鋭い針のように、薄暗い空の下に立つ、命ある者を容赦なく貫いていく。


(…この調子じゃ、明日も、雨だよね…)


咲良は自室の、窓際に立って外を眺めていた。
何故、部屋で待っていろと言ってしまったのか…、あのまま湯浴みに行ってもらえば良かった、と咲良は己の小さな過ちを嘆いた。

周泰は同じ部屋の中で着替えをしていた。
女官から新しい着替えを受け取って、周泰に手渡したのは良いが…、この流れでは此処で着替えてもらうことになる。
邪魔だろうと出て行こうとしたが、「何も気を使う必要はありません」と周泰に止められてしまい、無視することも出来ず…今に至るのだった。


(周泰さんは平気だろうけど、気にするなって言う方が…)


此方が照れるのもおかしな話だが、咲良は気を使ってずっと背を向けていた。
周泰の気配を意識しないようにと、雨音に集中し、耳を傾けようとする。

すると突然、鼻がむずむずし始めて…、咲良はくしゃみの前兆に気付き、慌てて口元を押さえた。

湯浴みをした後、ろくに髪を乾かさないまま走り回っていたために、体が冷えてしまったのか、背筋に寒気が走る。
雨のせいで気温が下がっているのも事実だが、これは完全に自分の不注意である。


「へ…っくしゅん!」

「…落涙様…お風邪を…?」

「ち、違いますよ!湯冷めなんかしていませ…」


慌てて言い訳をしようと振り返った咲良は、周泰が上半身裸でいたため、かっと頬を赤くした。
すぐさま視線を逸らしたが、赤面してしまったことは周泰に知れてしまっただろう。

今日の自分は、どこか変なのだ。
甘寧などはいつも半裸ではないか。
何をしようにも、苦しくて堪らないのだ。
すぐに息が詰まりそうになって…、いつも以上に空回りしている。


 

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