ひとりぼっちの涙




(う、うそっ…!?何で…!?)


咲良は己の目を疑わずにはいられなかった。
同時に、くらくらと目眩がした。
花のかんばせ…そのような言葉が、とても似合う人。


「閉月と申します。お見知り置きを…」

「彼女が踊り子の閉月だよ。別嬪だからって気を使わず仲良くしておくれよ?そう言えば…まだあんたの名前を聞いていなかったね」


蘭華に名を尋ねられたが、咲良はあまりもの衝撃にパニックに陥り、酸素を求める金魚のように口をぱくぱくさせることしか出来なかった。
そんな咲良を怪訝そうな顔で見る閉月、否…彼女は貂蝉に違いない。
やはり、ここは過去の中国ではなく、三國無双の世界だったのだ。


「あ…す、すみません。私は、咲良といいます」

「咲良…変わった名だねぇ。閉月、仕事用の名前を付けてやっておくれ。私は開店の準備をしに行くから後のことは任せたよ!」

「承知致しました」


ひらひらと手を振り奥へと消える蘭華だが、狭い部屋に二人きりにされた瞬間、美しい貂蝉に見取れていた咲良は、はっと我に返った。


(どうして、貂蝉が此処に居るのかな…?建業、呉ってことは、あれ?もう呂布は亡くなっているはずでしょう?)


それでは、おかしいではないか。
ゲームにあれこれ文句をつけるのはいただけないが、それでも、ある程度の歴史の流れは決まっているはずなのだ。
呂布の傍らに居た貂蝉が、呉で踊り子をする理由など無いだろう。


「咲良様?」

「咲良様だなんて!そんな呼び方やめてください貂蝉さん!」

「私の名を…何故?」


しまった。
咲良はさっと顔を青くした。
貂蝉は今、閉月と呼ばれているのだ。
蘭華は一度も貂蝉とは呼んでいないし、それならば、咲良が彼女の本名を知り得るはずがないのに。

相手を納得させる言い訳が思い付かず困り果て、あー、とか、うぅ、と唸ってばかりの咲良を見て、貂蝉はふわりと笑った。
その花のような笑顔を見た咲良は、何故か照れてしまって顔を真っ赤にする。


「ふふ、咲良様は可愛らしいお方なのですね…」

「そそ、そんな…!滅相もありません!」

「私が司徒・王允の養女、貂蝉であることは蘭華様しか知りません。どうか、内密に…」


わざわざ義父の名を挙げ、自らの立場を説明した貂蝉だが、もともと彼女の事情を知る咲良は首を縦に振り、何度も頷いてみせた。
このような秘密を明かされたのが普通の娘であったなら、この舞姫の正体にもっと驚愕したことだろう。


 

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