輝ける言葉



「…先程の…」

「はい?」

「…俺にはよく…分かりませんが…姫様が奏でられた音曲は…落涙様が…?」

「私がお教えた曲ですが…何か?」


まさか、興味を持ってもらえたのだろうか。
今まで小春に教えた曲は数えるほどだが、彼女は咲良の期待以上に素晴らしい笛の音を聞かせてくれる。

咲良が教えた曲を、小春が奏でる。
普通の高校生だった自分が、変わらない日常を生きる中で覚えていった、いくつもの名曲を。
それは、不思議なことでもあった。
小春の笛に耳を傾けていると、あたかも現代に戻ったかのような…現実を忘れてしまいそうな、そんな錯覚をしてしまうのだ。
少し寂しくなるけれど、小春はどの曲も気に入ってくれたし、やはり咲良は彼女の音を聴くことを楽しみにしているのだろう。


「周泰さんも、初めて耳にする旋律でしょう?あれは私の、故郷の音曲なんです」

「…とても…素晴らしい旋律でした…」

「本当に…?ありがとうございます!周泰さんにそう言っていただけると…嬉しいです」


正直、周泰と会話が成り立つとは思っていなかった咲良だが、好きなものを褒められて嬉しくならないはずがない(それが世辞であったとしても)。
喜びを隠さずにえへへと笑えば、周泰は表情を変えることはなかったが、何か眩しい物を見るかのように目を細めた。


「ねえ、周泰さん。せっかくですから、私の話相手になってくださいませんか?私、周泰さんのことを知りたいです」

「…俺について話しても…退屈だと…」

「そんなこと無いですよ。ひとりで部屋に居るときの方がずっとつまらないんです」


女とは現金なものだ。
数分前まであれこれ悩み鬱になりかけていたのに、すっかり忘れて、親しい訳でもない男相手に自然な笑みを浮かべている。

咲良は椅子では無く寝台に腰掛け、隣に座るよう促した。
それでも頑固な周泰は、腰を下ろしてはくれなかったが、入り口付近から窓際の方に移動し、やはり壁に寄りかかった。


「周泰さんは、椅子がお嫌いですか?」

「…いえ…迅速に…対応出来るようにと…」

「はあ…大変なんですね…」


目を見て話してくれるだけマシだ、嫌われているのではない、と思うことにしよう。
いつ刺客に襲われても主を守り通せるように、周泰は常に腰に刀を携え、周囲に気を配っているのだ。


 

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