甘き音色の中で



心が通うと、もっと先を望みたくなるものだ。
だが、趙雲も左慈の"五年は待て"との忠告を忘れたわけではない。
悠生を傷付け、負担をかけさせるぐらいなら迷わず耐える方を選ぶが、愛しい存在が触れられるほど近くにあるのに、口付け程度で我慢しろと言うのも酷な話である。
悠生が大人になるまでの辛抱だと、己に言い聞かせているのだが…、正直なところ、自信が無い。
悠生に触れたいと望むあまり、意に反して、思わず先走りそうになる。


「っ……!あっ…」


趙雲の手が右肩に触れた瞬間、悠生は怯えるように趙雲を押し返し、初めて拒絶を示した。
明らかな拒否反応に趙雲は驚いて体を離したが、悠生は己の体を抱き締めるようにして俯いてしまう。

悠生の右の肩…、それは以前、妲己の謀略に填められた真田幸村の焔の槍を直に受け、深い傷が残る場所であった。


「すまない、傷が痛むのだな?」

「ご、ごめんなさい…大丈夫です…びっくりしただけで…」


今度はそっと撫でようと手を出しても、悠生は逃れるように後ずさり、どうしても触れさせようとしない。
傷は癒えず、その身に受けた痛みが忘れられないから…、趙雲を拒む理由など他に思い当たらないが、果たして本当に、それだけだろうか。

悠生は今も、包帯を巻いている。
遠呂智の光臨による混乱の中、趙雲が目を離した数日の間に、無理矢理、戦場に立たされていたという悠生は全身に細かい傷を負っていた。
その中でも肩に受けた傷は、息耐えても不思議ではないほどの致命傷だったのだ。
奇跡的に生き延びてくれた悠生が、未だ痛みに苦しんでいることが、趙雲は苦しかった。


「…そんな…悲しそうな顔したら、嫌です…僕は、平気ですから。だけど、ここは変な感じがするから、あんまり…」


悠生は困ったように趙雲を見上げる。場の空気を気まずくしてしまったと思い、見る見るうちに眉を八の字にするのだ。
一時期に焦りを覚えた趙雲だったが、別に、嫌われたわけではないのだからと密かに安堵し、笑みを見せてやる。
漸く二人の時間が得られたと言うのに、互いに気持ちを沈ませていては勿体無い。


「ああ…肩には触れないように気を付けよう。その代わり…これからはもっと、貴方から私に口付けてほしいのだが、してくれるかい?」

「っ…が、頑張ります…」


かっと頬を染め、恥ずかしそうに頷く悠生が、恐ろしいほどに愛しかった。

心までも、寄り添い合っているつもりだった。
悠生は笑ってくれるし、以前から諸葛亮が案じていたその身の上を、未来の生まれだという事実を語ってくれたではないか。
それだけで、相手の全てを知り尽くしている気になっていたのだ。
未だに明かされない秘密を、悠生が胸の中に隠していることには気が付かなかった。



END

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