甘き音色の中で



「あ、あの…甘寧どの…、何か変なことを書いていましたか?字が掠れていて、上手く読めなくて…」

「変なことを…した覚えがあるのかい?」

「そ、んな訳じゃ…ありませんけど…でも…」


言いにくそうに言葉を濁す悠生に、趙雲は今度こそ、冷静さを保つことが出来なくなった。
甘寧の話など、聞きたくもないのに。
自分以外の男が、その唇に触れた、その事実を見過ごすことなど出来るはずもなかった。
今、目の前に居るのは誰なのか…、身を持って理解させてやりたい。


「し…しりゅ、…んんっ…!」


趙雲の顔色が急変したことに困惑する悠生を、難なく押さえ込み、唇を塞いだ。
久しぶりに触れた唇は変わらずに柔らかく、とろけそうなほど甘く感じる。
頼りない背を抱き、上向いていく悠生の顎を押さえ、趙雲は角度を変え、より口付けを深くしていく。


「ん…ッ……」


ちょっと舌を吸っただけで、悠生は力が抜けてしまったらしく、体重を趙雲に預け、すがりついてくる。
素直な反応に気を良くした趙雲だが、流石に自制しなくてはと思い、一旦は唇を離した。

息苦しさから涙目になっている悠生を、鼻が触れ合いそうなほど近くから見つめる。
そして、彼が苦手としていることを知りながら、低く低く囁くのだ。


「あまり私を妬かせないでくれないか…」

「っ…子龍どの…」

「私は、不安なのだよ。貴方は無防備ゆえ、私のような貪欲な男に狙われるのだ」


誰にも、渡さない。
たとえ悠生殿が許しても、私は許さない。
独占欲を露わにした趙雲の告白に、悠生は戸惑っているようだったが、躊躇いながらも、そっと手のひらを趙雲の頬に触れさせる。
すると悠生は背伸びをして、自ら恋人の唇に接吻をした。
ちゅっと音を立てて離れた、控え目な、悠生らしく優しい口付けだった。
ふ…と漏れた吐息が、やけに甘く感じ、趙雲は悠生の腰を抱き、深く身を寄せた。


「僕は…こういうことは阿斗とだってしません…黄皓どのも甘寧どのも大好きだけど…本当の一番は、子龍どのなんです…」

「ああ…分かっているよ。私も、貴方が誰より愛しいのだから…」


趙雲の指先が目尻にたまった涙を拭うと、悠生はくすぐったそうに笑う。
悠生自身が、こうして心の深いところまで触れることを許しているのは、阿斗と趙雲だけである。
だが、口付けを交わす相手は、たった一人だけなのだと思うと、趙雲の心は満たされた。


 

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