この愛を囁く



「し…りゅうどの…」

「ああ…悠生殿…愛しいよ…誰よりも…」

「…っあ…ぁ……!」


趙雲の唇が、肩の入れ墨にそっと触れた。
くすぐったいだけではない感覚を得て、悠生は小さく身震いする。
恐ろしい蛇を見ても臆することもなく、趙雲は熱い息を吹きかけながら唇を滑らせるから、悠生は顔を赤くして、びくびくと敏感に反応した。


「私とて、悠生殿を思う度、自分が恐ろしくなる…何度、夢を見ては貴方の口を吸い、その幼き身をかき抱いたことか…貴方に寄せられた信頼を裏切るような想像を、私は何度も繰り返したのだ」

「子龍どのの夢の僕は幸せ者ですね。凄く、羨ましい…。でも、本当の僕じゃ、駄目ですか?僕はまだ子供だけど…夢と同じように、僕がまだ知らないことを、教えてくれますか…?」


他意は無かったのだが、悠生の甘えたような言葉は、趙雲を煽るだけだった。
日頃から忍耐強い趙雲ではあるが、苦しげに眉を寄せた表情には余裕のかけらも見えない。
引き寄せられるように悠生の唇を塞いだ趙雲は、貪るようにして激しい口付けを繰り返した。
これ以上、悠生が何か言えば、趙雲は自分を抑えきれなくなると思ったのだろう。
手を出してくれて、構わないのに…
悠生は熱い口付けに応えながらも、心の隅で少し寂しい想いをするが、趙雲が何故一線を越えようとしないのか…その理由を、思わぬ人物の登場により気付くことになった。


「…きゃあっ!こ、このような場所で何をなさっているのですか!?ふっ、不埒にも程があります…!」


キスに夢中になっていた悠生は、突如聞こえた耳をつんざくような悲鳴に我に返ると、わなわなと震えている稲姫を視界にとらえた。
主君である家康に従い、稲姫は女の身でありながら多くの戦に参じている。
水浴びにでも来たのだろうか、男二人が逢瀬し、密かに愛し合う姿を目撃した稲姫は、可哀想なほどに真っ赤になっていた。
生真面目で硬派な趙雲と、幼さが抜けない悠生がただならぬ関係にあることに、純粋で潔癖な姫様は、激しくショックを受けたらしい。


「稲殿…私達は想い合っている…ゆえに、どうか偏見を持たないでいただきたい」

「い、稲はっ…殿方の嗜みをとやかく言うつもりはありません!ですが、時と場を弁えてください!外でなんて、は、破廉恥です…!」


断袖の仲とは言うかもしれないが、衆道という文化が無い国に生まれた趙雲には、男色が嗜みと言うのも不思議な話だろう。
そもそも、稲姫は趙雲と悠生の恋仲を嫌悪し、否定している訳ではないのだ。


 

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