この愛を囁く



「遠呂智は…貴方に何をした…?残忍な魔王が、気まぐれで命を救うような真似をするものか」

「永劫不死の呪いに、遠呂智は苦しんでいました。誰かに殺してもらわなければ一生、生き続けることになります。見送ることしかできない、別れが辛いから、ひとりきりに…、僕も…同じみたいです」


遠呂智が悠生を救った本当の理由は分からないが、単なる気まぐれでは無いと、そう思いたかった。
遠呂智は、誰かに悲しみを終わらせてほしくて、人々に戦いを挑んだのだ。
同じ悲しみを悠生にも味わわせることに、どんな意味があったのだろう。
悠生は遠呂智を恨んではいないが、今は彼のことを思い出すと胸が締め付けられる。

遠呂智を哀れむような悠生の言葉を、趙雲は如何様に受け止めたのだろうか。
悠生の肩に、入れ墨にそっと触れた趙雲の表情は険しく、それでいて苦しげだった。


「もし、遠呂智が復活し…我々が今度こそとどめをさしたなら、貴方はどうなる?遠呂智と同じと言うのならば、貴方もまた…」

「…はい。関平どのや、孫策さまと同じように…僕もこの世には居られなくなるはずです」


遠呂智の死が、悠生の死に繋がる。
安らかな眠りの中に居る魔王が、今も悠生を支配している。
だから、遠呂智を復活させないためにも、妲己や政宗を確実に止めなければならないのだ。

避けることも出来ない、悠生の過酷な定めを聞かされた趙雲は、ただひたすら、苦しみに耐えているようだった。
悠生はそんな趙雲を愛しく想うも、未だ…一抹の不安が消え去らない。


「それでも僕は、遠呂智に感謝しているんです。今すぐに死ぬのと、いつまでも生きる…どちらかを選べと言われたら、僕は生きる方を選びます。呪いや入れ墨を恐れる前に、大好きな阿斗や、子龍どのの傍に居たいと思ったんです」


好きな人達が居るから。
だから、今を生きなければ意味がない。

悠生は肩に置かれた趙雲の手をやんわりと外した。
しかし趙雲は拒み、逃げようとする悠生の手をつかまえる。
視線が交わると、どきりとして胸が熱くなる。
急に恥ずかしくなって、目を見ることも出来なくて…、悠生は趙雲に手を握られたまま、俯きながら胸の内を語った。


 

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