この愛を囁く



「貴方が左慈殿と姿を消したと聞いたとき、生きた心地がしなかった。まさか本当に仙界に連れていかれてしまったのではと…不安でたまらなかった…」

「子龍どの…僕は、何処にも行きません。仙界にだって…僕が太公望どのに従って仙界に行くとしたら、それはきっと、阿斗が大人になって、天寿を全うした時です」


自分が仙界で生きる姿など、到底想像出来ない。
ただ、阿斗が亡くなった後ならば、居場所を無くすことになる悠生は自らの意思で蜀を離れることがあるかもしれない。
趙雲は訝しげな顔をしたが、悠生は悲しげに笑うばかりだ。
不安を煽るようなことを口にし、辛く苦しい想いをさせて…、それでも趙雲は、変わらぬ愛を与えてくれる。

この人に、嘘を付きたくはない。
少しずつでも、秘密を打ち明けて、隠し事を減らしていくべきだろう。
阿斗に打ち明けたように、趙雲にも…


「僕、子龍どのに、聞いてほしいことがあるんです。驚くかもしれないけど…」

「な…、そ、そのようなことをしてはならない!」


全てを話すつもりで、悠生が思い切って服を脱ぎ始めると、趙雲は珍しくも取り乱し、顔を赤くしてすぐに止めようとする。
前もこうして、秘密を語る機会を逃してしまったのだ。
今日は絶対に、失敗したりしない。
例え、気持ち悪いと言われて、嫌われても…伝えなければならないのだ。


「お願いです!少しで良いから…ちゃんと、僕のことを見てください…!」

「……、」


弱々しく声が震えてしまったが、必死に物を言い、趙雲を言いくるめたところで、悠生は肩に巻いた包帯を丁寧に取り去っていく。
口では大きなことを言っておきながら、手が震えていた。
…嫌われたくないと、思い浮かぶのは後ろ向きな考えばかりだ。
阿斗は子龍ならば大丈夫だと励ましてくれたが、弱い心が、より悠生を不安にさせた。


「悠生殿…?それは、いったい…」


ついに、趙雲の瞳が、悠生の肩に住み着く恐ろしい蛇を映した。
消えかけていた命を救う代わりにと、遠呂智が残した、入れ墨。
悠生の白い肌に刻み込まれた異様な紋様を目にした趙雲は言葉を失い、衝撃を受けているようだった。


「僕が、幸村どのの槍で怪我をした時、本当は、凄く傷が深くて…死ぬはずだったんです。だけど僕は、遠呂智に生かされました。僕が此処にいるのは、遠呂智が助けたからなんです」


かつて、妲己の監視下にあった悠生は、幸村の槍を受けて致命傷を負ったが、遠呂智のお陰で生き延びることが出来た。
ずっと傍に居てくれた三成の口から聞かされただけで、本当のこと…遠呂智が何を思っていたかは、悠生も知らない。
使える存在だと見込んだから?
哀れだとは思わずとも、今すぐに死なせるのは惜しいと、情けをかけたのだろうか。
だが、悠生の記憶に残る遠呂智の瞳は…いつも、寂しげだった。


 

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