甘き音色の中で



「成都に帰ってすぐぐらいに、孫呉の甘寧どのに文を貰ったんです。勧誘されてるってことは分かるんですけど、達筆で僕には読めなくて…黄皓どのにお願いしたんですけど、笑ってばかりなんです」

「……、」


孫呉の甘寧将軍…、鈴の甘寧と、その名が世に知られた猛将である。
まさか甘寧が悠生に書状を送るような間柄だったとは、思いもしなかった。
黄皓どのは意地悪だと悠生は唇を尖らせるが、書状に目を通した趙雲は、その内容を知った途端、思考が停止しそうになる。


(こ…これは…恋文ではないか…!?)


内容を理解した趙雲はわなわなと震え、悠生が首を傾げても、笑顔を浮かべることさえ出来ない。
甘寧からの書状、それは勧誘などではなく、悠生宛ての恋文としか思えなかった。


(良い想いをさせてやるから、俺のところに来ないか…?この一文だけ見れば、確かに勧誘かもしれないが…)


"落涙が居ないからお前を傍に置きたい"と甘寧が綴った文字は、信じられないような事実を趙雲に告げた。
甘寧は悠生の姉・咲良に懸想していたらしい。
だが、彼は悠生を代わりにしようとしている訳ではないようだ。

更には、"お前に口付けた責任を取ってやるから"などと知りたくもない衝撃的な事実を暴露し、横から悠生を奪おうとする。


(悠生殿に、いったい何をしたのだ…!)


握り締めた文を破り捨てたい衝動にかられたが、意図も伝えずに乱暴な行いをして悠生を怯えさせる訳にはいかない。
だが、どうしようもなく腹が立った。
黄皓とて同じだ、悠生の周りには、悠生を愛する者が多すぎる。
胸の奥でくすぶっていた炎が、いっそう激しさを増す。
自分の知らないところで悠生は他の男と親しくしている…、そんな勝手な想像で、趙雲は嫉妬の炎を燃え上がらせた。


「趙雲どの……?」

「子龍と。二人の時は、字で呼んでくれと言っただろう?」

「えっ、あ、はい…子龍…どの…」


未だに慣れないのだろう、字をたどたどしく呼ばれ、趙雲はいよいよ我慢が利かなくなった。
以前よりも少し伸びた、さらさらと流れる黒髪に指を絡めれば、悠生はちらりと上目遣いで見てくる。
少し不安げで、それでいて安心しきっているような眼差しは、趙雲の鼓動を速まらせるばかりだった。
手の届く距離に、愛しい人が居るのだから。
それでも理性は働いているので、趙雲は怖がらせぬようにと気を使い、悠生を抱き寄せようとしたが、とうの悠生は趙雲が切羽詰まっていることには全く気付いていないようだ。


 

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