奔放なるもの



「おっと!その弓矢、普通じゃないよな…当たったら肉片も残らないってか?」

「…退いてください。後ろから攻めようとするなんて、卑怯です!来るなら前から来てください!」

「めんどくせえ奴だな…お前の理屈なんて、知らねえよ!」


司馬昭は軽々と攻撃を交わすが、悠生も負けていられない。
歯を食いしばり、司馬昭に立ち向かう。
悠生には、彼の隙が見えていた。
心にある眼を凝らし、一歩先に司馬昭の太刀筋を見極めた悠生は、渾身の力を込めて思い切り彼の武器をなぎ払う。


「あなたなんか、大嫌いだ…!」


悠生は至近距離で弓を構え、司馬昭の喉元に矢を向けた。
少しでも動いたら、この矢を突き立ててやる。
…この弓矢では、人は殺せないけれど、地面に叩き付けて痛い想いをさせることは出来るのだ。
勝手な恨み言から生まれた残酷な想いを胸に、悠生はじりじりとにじり寄った。
降参とでも言うかのように両手を上げた司馬昭だが、まるで恐怖を感じているようには見えない。


「なあ…俺がお前に何をしたんだよ?嫌いなんて言われる覚え、全く無いんだ。俺に非があるなら謝るから、言ってみろよ」

「あなたは…っ…僕の友達を…!」

「友達?」


…でも本当は、この人は違う。
確かに正史や、演義での司馬昭は悠生にとって都合の悪い人物なのかもしれない。
だが今、目の前に立つ男は、司馬昭の名を持ってはいるけれど、まだ何も悪いことをしていないのだ。
劉禅を笑ったり、黄皓を斬ったりしていない。
そうならないように、悠生が二人の傍にいてあげれば、司馬昭を嫌うことは有り得ない。

このまま喉を射抜かれて、殺されるかもしれないと言うのに、司馬昭は気丈に振る舞い、悠生の怒りの理由を知ろうとしている。
真っ直ぐな視線は、どんな攻撃よりも鋭く突き刺さった。
…弓を構える手が、がたがたと震え出す。
力が、入らない。
人殺しなんて、したくない。
弱い心が、臆病な感情がどっと溢れて、悠生は息が止まりそうになっていた。


(殺せない…僕には、出来ない…!)


恐怖に呑まれてしまった悠生の異変を、無双の力を持つ武将が見逃すはずがない。
いとも簡単に弓を弾かれ、緑色に輝く光の粒子を浴びながら、地に押し倒されてしまった。
地に頭を打ち付け、自由に呼吸が出来なくなる。
ひ弱な悠生が腕力で勝てるはずも無い。
息苦しさから瞳に涙を浮かべた悠生は、死を目前にし、言いようの無い恐怖に肩を震わせた。


 

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