奔放なるもの
「僕は、左慈どのが一緒に居てくれたら、もっと戦えます」
「…そうかね。では、小生もそなたのため、全力を尽くそう」
浮かべた笑みはぎこちなくなってしまったが、左慈は目尻を下げてふっと笑う。
一人じゃなかったら、頑張れる。
誰かが隣に居てくれたら、それだけで、勇気に変わるのだ。
砦内に侵入した敵が全て倒されたことを確認し、悠生は扉に厳重に錠を掛けさせた。
そして左慈と、数名の兵卒と共に砦の外に立ち、真っ直ぐ先にある伊達軍本陣を睨み付ける。
時間を置かず、此方に向けて突進してくる伊達軍の足軽の数は疎らだが、全てを撃退しなくては後々、趙雲達を危険に晒すこととなるのだ。
「絶対、此処は越えさせない…!」
「おう!!」
自身を奮い立たせるために自然と声を上げた悠生だが、周囲の兵がやけに気合いの入った様子で応じたために、びくっとしてしまう。
皆が同じ志を抱いていることに気が付き、より気を引き締めなければと思った。
兵卒達は揃って武器を掲げ、威勢良く駆け出していったが、悠生は弓を構えたまま、視線で左慈に指示を仰いだ。
「では、小生が風を起こそう。この風の流れを感ずれば、そなたは自由に戦える」
左慈は数枚の護符を宙に浮かばせると、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。
間もなくして、目映いほどの美しい光を伴い、彼の足下に巨大な陰陽の印が出現する。
高い位置で結われた悠生の髪が、突如巻き起こった強い風に揺れた。
左慈の操る護符が、ピンと張る。
次の瞬間、色の付いていた景色はモノクロとなり、全ての音が消え、皆の動きがぴたりと止まった。
(え……!?左慈どの!?)
(何も案ずることはない。そなただけ、風の流れを通常よりも遅く感じておるのだ)
時が止まった訳では無かった。
人の動きが、悠生の目にはスロー再生をしたかのように映っているのだ。
左慈の仙術が作り出した無敵の空間。
今なら、どんな素早い攻撃も交わし、迫り来る敵を気絶させることが出来るかもしれない。
状況を理解した悠生は地を蹴り、恐れを断ち切って、敵の軍団の中に飛び込んだ。
皆には、悠生が異様なほど速く動いているように見えるのだろう、驚いた顔をし、伊達軍の足軽は武器を振りあげようとする。
悠生は右手に持った弓を勢い良く振り回して、相手の刀を遠くへ弾き飛ばした。
すかさず、地に幻の矢を放って敵兵の足場を崩し、連続して威嚇攻撃を与えることで此方の優勢を示し、戦意を失わせるのだ。
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