奔放なるもの



招かれざる将の到来を予感して、悠生と左慈は急いで味方砦へ駆け付けた。
思わぬ奇襲を受けた僅かな蜀兵が奮戦し、必死に道を塞いでいる姿を見る。
中央砦を攻める趙雲や魏延が挟み撃ちされるのを防ごうと、彼らは命懸けで、敵へと立ち向かっていたのだ。


「まずは敵を一掃せねばなるまい」

「はい。僕は櫓から攻撃します」


左慈の言葉を受け、悠生は梯子に手をかけると、一気に櫓を登った。
上から見下ろした方が、敵味方の区別を付けやすいのだ。
櫓の上に立った悠生は、音もなく幻の弓を形作り、狙いを定めるべく目を細めて敵の動きを観察した。
心の瞳で物事を見極める…、太公望の教えを意識し、弓を構えたままじっと砦内を見ていたら、少しずつ…体全体で風の流れを感じられるようになる。
ぴたりと風が止まったとき、悠生にしか見えない光が次々と生まれ、消えていく。
それらが、今から貫くべき箇所なのだ。
悠生は躊躇うこともなく、数本の矢を放った。

矢を射った瞬間、指先にいつもと違う妙な振動が伝わる。
やはり、指輪が邪魔なのだ…違和感がある。
しかし、目標が外れることは無かった。
幻の弓矢であるから、人間の命を奪うことはない。
まるでドリルのような勢いで、突風を巻き起こしながら懐に飛び込む悠生の矢に、何も知らない兵卒達はその衝撃に耐えられず、壁や地に体を打ちつけ気絶する。
敵軍団は散り散りとなり、押されていた蜀兵達は徐々に調子を取り戻したようだ。


「悠久よ、見ての通り、兵の士気は保たれているが、相当に疲弊していよう。そう長続きしまい」

「左慈どの、僕はどうすれば…」

「そなたが門の前で仁王立ちをし、敵の進軍を食い止める…危険だが、小生は今のそなたになら可能だと思うておる」


左慈は重々しく口にしたが、それでも悠生に期待し、行動を促している。
仁王立ち…、体を張って敵の進行を食い止めろと言われても、戦闘経験の少ない悠生には無謀な行いでしかない。
死を覚悟の上で、その身を危険に晒し、得るものはあるのだろうか。

死地に飛び込んで尚、悠生は戸惑い、すぐには返事を出来なかった。
しかし、悩んでいる時間はほとんど無い。
蜀の兵卒達は傷付きながらも、精鋭揃いの伊達軍と衝突し合っているのだ。
死を恐れずに戦う…、簡単なことではないが、怖いからと逃げ出しては、皆を守るために戦場に立つ、その資格も無くなる。


 

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