定めの道の上



かくして悠生は、中央砦に向かう趙雲軍に続いたが、進軍は思ったよりも困難な様子であった。
政宗を説得するためには、敵兵であれ多くの死傷者を出す訳にはいかないのだが、道を塞ぐ伊達軍を傷つけぬよう気遣っては、それだけ時間を浪費してしまう。
多少の犠牲は、致し方ないことだ。
敵援軍が到着する前に砦を落とさねばならないと皆が焦る中、悠生は同じく部隊の支援に回っていた左慈の小さな声を聞いた。


「…悠久よ、新たな風が吹いたようだが、如何する?」

「風…ですか?」

「ほう…途轍もなく強き心を持つ者らしい。敵本陣を抜け出し、此方に向かっておる。恐らく、小生らの背後を突く気であろう」


左慈は目を細め、戦場に吹く風を感じていた。
彼は未だ姿の見えぬ敵の姿に気付き、皆に悟られぬよう、悠生にだけ指摘する。

悠生は雑賀の里の地図を思い返したが、敵本陣を出て趙雲の背後を突くには、先ほど趙雲の部隊が拠点とした南東砦を通らねばならないはずだ。
敵中突破が可能なほどの豪傑がまだ、伊達軍に存在する。
つまり、その者には相当な自信と実力がある訳だ。
中央砦を目指す趙雲隊を背後から襲撃し、挟み撃ちを狙っているとなれば、最もその敵に近い位置に居る悠生が、じっとしていられるはずがない。


「そんなことをされたら…皆が危ない…」

「若き龍に知らせては、砦を落とす作業が滞る。しかし無視すれば、打撃を受けた部隊は壊滅するやもしれぬ」

「……左慈どの。僕と一緒に、敵を撃退してくれますか…?お願いします!力を貸してください!」


敵部隊が南東砦を通過する前に、どうにか手を尽くして止めなければならない。
だが今、中央砦を攻める趙雲や魏延の力を借りることは出来ない。
考えた末、悠生は左慈に頭を下げ、必死になって頼み込んだ。
すると左慈は、前方の趙雲隊が中央砦の目前まで迫っている様を見届けると、さっと優雅に踵を返した。


「では、小生らで迎撃しようかね。まずは南東砦まで引き返し、固く扉を塞ぐのだ」

「は、はい!ありがとうございます…」

「気にすることはない。小生は、そなただけに苦しい想いをさせたくはないのだ」


表情が乏しいように見えて、左慈はとても優しい。
仙人は人間とは異なる取っ付きにくい存在だと思われていても、こうして他人を慈しむことが出来る。
左慈の気持ちに応えるためにも、精一杯頑張らなければならない。

一時、戦線を離脱し、南東砦へ舞い戻る。
勿論、趙雲には報告をしなかったし、誰にも伝言を残さなかった。


(僕が、どうにかしなくちゃ…皆のためにも…)


戦を恐れる悠生だが、再び手を血に染める時が来たのだ。
守りたい人達のために勇気を振り絞り、悠生はマサムネの腹を蹴った。

途轍もなく、強き心を持つ者…悠生の大切な人に深く関わることとなるその男との出会いなど、未来を知る悠生でさえ、想像することはなかった。



END

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