定めの道の上



雑賀の里…、優れた鉄砲の腕を持つ"雑賀衆"が暮らす村であるのだが、先の戦乱で田畑は荒れ果て、民の姿は何処にも見えず、代わりに戦の名残が至る所で見られた。

趙雲の部隊が雑賀の里へ到着した時には、伊達政宗と徳川家康の戦いが始まっていた。
徳川軍が既に奪っていた南東砦を拠点とし、家康達の援護をする。
使い番の報告によると、戦力が集中している中央砦には豪傑・前田慶次を始め、他にも武勇名高い伊達三傑が勢揃いしており、徳川軍は砦を落とすことが出来ないでいるらしい。
しかも、伊達軍の援軍が近くまで迫っている。
敵軍が増援する前に砦を奪わねば、政宗を説得するどころか此方が討ち取られてしまいかねないのだ。


「我…砦…燃ヤス!」


最も単純かつ確実な策・火計にて敵を制すため、魏延は我先にと中央砦へ向けて進軍を開始した。
悠生も他の蜀軍と共に魏延に続こうとしたが、趙雲が待ったと声をかける。


「悠生殿、貴方はもっと後方を支援してくれないか?先陣は魏延に任せておけば間違いないだろう」

「はい…分かりました。気を付けます。僕が先頭集団に居たら、足手まといですよね」

「いや、そういうことではないのだ。私はやはり、貴方を危険な目に遭わせたくない」


戦場では、大人も子供も関係無いだろうに。
生粋の武人である趙雲が私情を挟んでまで、悠生を死地から遠ざけようとしている。
命令だから仕方無く連れてきたけれど、本当なら安全な場所で待っていてほしかった、と趙雲は溜め息混じりに呟いた。
子供扱いは面白くないけれど、こうして趙雲に気にかけてもらえると、嬉しい。


「それに…今日戦う相手は、遠呂智に従っていた伊達政宗という男だ。隻眼の猛者であると聞いた。悠生殿、貴方がマサムネと名付けた馬も、隻眼だったが…」

「…僕の生まれた時代では、政宗さまは凄く人気があるんです。勿論、僕も尊敬していました。だけど…、遠呂智を一途に慕う政宗さまは、僕の知る英雄じゃありません」


ずっと遠くに存在する…、悠生と咲良だけが知っている、未来の話をした。
日本の戦国時代は、現代から数えても、たった400年前のこと。
だけどこの三国時代から見てみれば、悠生が生まれ育った時は、1800年も先の出来事なのだ。

かつて、馬超の紹介で隻眼の馬と出会った悠生は、独眼龍・政宗公に因んで、マサムネと名を付けた。
恐らくは趙雲も、今日、改めて隻眼の猛者について知らされ、悠生が片目を無くした馬に珍しい人名を与えた、その本当の理由を察することが出来たのだろう。

歴史は既に、大きく変わっている。
だから今日、伊達政宗と対峙しても、悠生が傷付くことなど無いのだ。


「…ならば、尚更貴方を前線に連れていく訳にはいかないな。伊達政宗に見とれる悠生殿の姿など目にしたら、嫉妬に狂ってしまいそうだ」

「えっ!?し、子龍どの…」

「せめて戦場では、貴方の目に映るのは、私の背だけであってほしいというのは、我が儘だろうか?いや…戦わないでほしいというのが本音なのだが…」


そんな、恥ずかしいことを真顔で言ってしまう趙雲に、悠生の方が居たたまれなくなってしまう。
そして…この人が好きだ、と再確認する。
一緒に戦うことが出来る…それはとても、恵まれたことなのかもしれない。


 

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