定めの道の上



石亭にて、妲己を逃してしまった蜀軍だが、仙人・太公望と左慈の協力を得る事が出来た。
しかし、気紛れな太公望が、悠生が隠していた秘密を皆の前でほのめかしたために…少し、居心地が悪くなってしまった。
誰も、何も聞かないから。
どうせ答えられないのだから、聞いてほしい訳ではないけれど…心なしか、皆との距離が開いてしまったような気がした。

趙雲の態度はいつもと変わらないが、近頃の阿斗はまるで元気が無く、見るからに落ち込んでしまっている。
太公望に厳しい言葉をぶつけられてから、阿斗は己の無力さを嘆いては、溜め息を漏らしてばかりだ。
確かな力があるのに、自分のものに出来ないもどかしさ。
心が弱いからと、人のために戦うことを認められない。
プライドの高い阿斗だからこそ、人前で自尊心を大いに傷付けられ、なかなか立ち直ることが出来ないでいるのだろう。
悠生が声をかければ笑ってくれるが、今回はかつてないほどに重傷のようだ。

成都に帰ってから、阿斗は悠生以外とは触れ合おうともせず、趙雲や星彩でさえ遠ざけ、内に籠もってしまった。
やはり劉禅様に戦は早かったのだろう、と皆は口々に噂し合い、意図せずに阿斗を追い詰めようとする。
精神的に不安定な阿斗のことが心配で、彼の傍から、片時だって離れたくなかった。
しかし、乱世に生きる大人達は、悠生の我が儘を許してはくれない。



「ふむ…指輪かね」

「はい…でも、弓を持つとき邪魔になります」

「そなたの力をより引き出すためには、その指輪を利用すべきだと…考えは実に的を得ている。だが、しかし…」


左慈に指輪を見せながら、悠生は溜め息を漏らす。
何か小言を口にしたそうな顔をしていた左慈だが、続きは胸の内にしまい込んだようだ。

太公望は悠生を仙界に連れていくことを諦めたが、代わりに、人界にて修行をすると決めたらしい。
彼が最初に指摘したのは、翡翠玉を無くした美雪の指輪である。
美しい玉そのものに、美雪の力が込められていたが、全て悠生に取り込まれたため、輝きは失われてしまった。

ずっと首に下げていた指輪を、久しぶりに指に嵌めてみる。
指輪の存在を感じながら何度も弓を射れば、自ずと道が見えてくる、と太公望は語った。
この状態で弓を扱うのは難しいと思ったが、太公望は無理にでも実行させようとするのだから、案外厳しい男である。


 

[ 48/65 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -