果てしない鎖



「仙人が…悠生を振り回すなど…」

「阿斗、ごめんね。でも、僕は怪我もしてないし…」

「当たり前だ。そなたが無事でいたから良かったものの…傷を負わせてなるものか!」


大人達の輪から外れた場所で、悠生はひとり、機嫌を損ねた阿斗に怒られていた。
だが、彼の怒りの矛先は、悠生を連れ出した太公望に向けられている。
己の選択が間違いだとは思わないが、不安にさせたことは明らかで、申し訳ないことをしたと悠生は深く反省した。


「阿斗…僕のこと、嫌いになっちゃった…?」

「まさか、嫌うはずが無かろう!何があろうと、そなたを手放すつもりなど無い…だから、離れていかないでくれ」

「うん…そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう」


少々弱気になってしまった悠生だったが、阿斗の告白紛いの力強い言葉を受けて、やっと安堵することが出来た。
しかし、太公望が突然"悠久"の名を呼んだため、皆の視線を一度に浴びた悠生は、驚いて身を固くする。


「私は当初、悠生を仙界に迎えるつもりでこの地を訪ねたのだ」

「悠生殿を?何故、太公望殿が…」


太公望に疑問をぶつけたのは劉備であったが、蜀軍の仲間達…特に悠生の恋人である趙雲は、太公望の発言が信じられないようで、顔を歪めていた。
仙人が自ら迎えに出向いた…、それは諸葛亮らがずっと疑念を抱いていた悠生の秘密の壁を、より厚くするだけだ。
しかし、そう簡単に真実を話されては…、都合が悪いことが多すぎる。
悠生はどきどきしながら太公望の次の言葉を待ったが、彼の口から飛び出したのは、悠生も知らぬ新たな情報であった。


「近頃、各地で童が捕らわれている。それも、神に仕える巫女や、術師の子など…稀有な力を秘めた子らが狙われているようなのだ」

「なんと、子供が…?いったい、誰が何のためにそのようなことを…」

「目星は付いているが、断言は出来ぬのでな。私はその報を聞きつけ、真っ先に悠生のことを思い出した。私の弟子となる予定の悠生が狙われぬはずが無い」


何者かに、子供達が誘拐されている。
犯人も、その目的も分からないが、純粋な子供達の力が私利私欲のために悪用されるなど、あってはならないことだ。
だから太公望は、神の生まれ変わりであり、西王母の加護を受ける悠生を保護するため、此処へ来たのだ。
だが皆は、その事実を知る由もない。
誰にも語らずに、ひた隠してきたのだから。


 

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