果てしない鎖



「ふむ…そなた、これ以上悠久の力を引き出してはならぬ」

「何故に?悠生こそ人間達の希望であろう?」

「そなたは分かっておらぬようだが…、悠久はまごうことなく人の子なのだ。可愛がるのも良いが、やり方というものを考えよ」


劉備率いる蜀軍を助けるため、援軍として訪れたであろう左慈だが、全く聞く耳を持たない太公望に呆れ返っているようだった。
悠生が活躍することを、左慈はあまり快く思っていないのかもしれない。
それは以前、彼が語ったように、悠生と咲良…仙人の目的のために人間である二人を巻き込み、将来を狂わせたくないという気遣いであるが、太公望は左慈と意見が異なり、悠生の力を借りて平和を取り戻そうとしている。


「私は先の先まで見通しているゆえ、貴公が案じることなど皆無であろう?いずれ、時が来れば…悠生を仙界へ連れていく」

「その時はいつと考える?小生には、そなたの心が定まっていないように感じる」

「何を言われようが構わない。私は悠生のためにならないことはしない」


左慈の鋭い言葉も聞き流し、太公望は毅然と言い放つ。
悠生は仙人の仲間である二人が睨み合っている理由が分からなかったが、自分のために言い争っていることだけは理解した。
喧嘩なんてしてほしくないのに、それでも、横から口を挟むことは出来なかった。


「さて、妲己の無様な姿を見物しに行きたいが、まずは、悠生を本陣に送り届けねばならないな」

「小生が引き受けよう。そなたは蜀軍の面々に顔を見せてくると良い」

「その心遣い、痛み入る」


左慈の申し出を快く受け入れた太公望は、軽やかに地を蹴って激戦地へと飛び出していった。
悠生は深く溜め息を漏らす左慈に連れられて、一足先に帰陣することとなった。


「小生が思うに、既にそなたは乱世に巻き込まれているのであろう…後戻りは出来まい…」

「僕は…お姉ちゃんのためにも、逃げたら駄目なんです。左慈どの、せっかく心配してくれたのに、ごめんなさい」


左慈の気遣いを無碍にしてしまうことを謝罪し、悠生は深く頭を下げた。
だが左慈は、悠生を咎めることはなかった。
きっとこれが、定められた新たな道。
ならば運命にあらがうことはせず、素直に身を任せるのもまた良いであろうと。


悠生の密かな行動により、蜀軍は妲己を追い詰めることには成功したが、すんでのところで取り逃がしてしまった。
太公望は…中央砦へ赴くと、妲己をからかって楽しんでいたらしい。
そんな気紛れな太公望ではあるが、援軍として現れた、人間とも親しい左慈の仲立ちもあり、やっと劉備に紹介されることとなった。


 

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