果てしない鎖



ゲームの中で太公望は、弱い人間に期待はしておらず、劉備の人徳を利用して妲己を捕らえるつもりでいた。
今も、彼は人を駒として見ているのだろうか。
しかし、悠生が接していた太公望は、冷たいばかりの男ではなかった。
太公望の心は容易に理解出来ないが、今は彼を信じて、共に戦おう。


「太公望どの、僕はどうしたら良いですか?」

「ではまず…弓を形作るのだ。そして、妲己の結解の仕掛けを見破り、射抜くだけで良い。目に見えるものが全てと思わぬことだ。貴公になら出来よう、心の眼で、真実を見極めよ」


難しいことにも思われたが、悠生は言われた通りに光を伴った弓を出現させ、砦に向けて狙いを定めた。
ぎりぎりと弓がうなるが、悠生はじっと砦を見据え、そのままの体勢で暫し静止する。
心の眼で真実を見極める…、その言葉の意味を自分なりに解釈し、悠生は一度、目を閉じて心を落ち着かせた。


(あ…光が見える…)


指先に、熱が集まっていく。
その熱を両の目に移すイメージをし続けたら、真っ暗な世界の中に、僅かながら光が浮かぶ。
悠生の心の瞳は、生まれて初めて視力を得たのだ。
光は徐々に細い線状に伸びていき、輝く、一際大きな光の塊を見つけ出した。

そこで漸く、悠生は目を開けた。
するとどうだろう、砦の上に、暗闇の中で目にした、無数の光の塊がくっきりと浮かんでいたのだ。
きっとそれが、妲己が生み出した結解の核であろう。
そう確信した悠生は、目を細めて狙いを定め、何度か連続して矢を放った。


「…当たれ…!」


数本の矢はそれぞれ、悠生の狙い通りに光の塊を打ち砕き、ぱあっと粒子となって弾け散った。
雪のように降り注ぐ光は、恐らく誰にも見えていないのだろう。
砦を覆うようにして漂っていた妲己の結解は、一瞬のうちに破壊されたのだった。
防御力が低下した扉が破壊され、蜀軍が一斉に砦になだれ込む様を、悠生は遠くから見つめていた。


「やはり、私が見込んだだけのことはある…つくづく、貴公が人の世に生まれたことが惜しい…」

「え、っと…太公望どの…?」

「ああ、期待以上の働きだった。今頃妲己は大慌てだろう…後ろで見ていた貴公も、そうは思わぬか?」


反応に困るようなことを呟いていた太公望は、前を向いたまま、悠生も存在に気が付かなかった第三者に声をかける。
背にも目があるのだろうか、この人は。
心の瞳を鍛えればこうなるのかと、悠生が慌てて振り返ったら、困り顔で此方を見つめる仙人・左慈の姿があった。


 

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