果てしない鎖



阿斗を放置し、太公望は一人で話を終わらせてしまう。
だが、妲己を捕縛するため力を貸してほしいと口にする太公望は、どうしてか、悠生を蜀軍から引き離すと言うこれまでの考えを改めたらしい。

反乱軍の本陣である中央砦は、確かに悠生の記憶でも、強力な結解のせいで扉は固く閉ざされていた。
その扉を開けてくれるのが、蜀軍を利用しようとして現れた、この太公望だったはずなのだ。
だが、彼は悠生の協力を求めている。
それならば…、嫌と言うわけにもいかないだろう。


「"ずっと"は、約束出来ません。僕はどうしても、阿斗の傍に居たいんです。でも、今だけなら…、僕の力が、蜀の皆の役に立つなら、太公望どのと一緒に行きます」

「悠生!そなたが戦場に出るなど…」

「すぐに戻ってくるから、そんな顔しないで?大丈夫だから…ね?」


未だに太公望を信じることが出来ない阿斗は、悠生が本陣の外へ出ることを拒み、手を離そうとしないのだ。
親友の心が、悠生には痛いほどよく分かる。
だが…これから、幾度となく苦難を乗り越えていかなければならないのだ。
僅かな時であれ、阿斗を残していくのは辛いけれど、これぐらい我慢しなければ。
小さく震えている阿斗の肩を抱き締めてから、悠生はゆっくりと体を離した。


「行ってくるね、阿斗」

「……、」


手を振ったが、阿斗は何も言わなかった。
ただ、太公望の隣に並ぶ悠生の姿を、酷く辛そうに見送るばかりだった。




悠生はマサムネに乗って、先を走る太公望を追いかけていた。
久しぶりに感じる、戦場の空気が重苦しい。
中央砦までの道には、敵味方問わず遺体が転がっていたものの、僅かに生存していた敵兵は、太公望の仙術によって倒され、難なく通り抜けることが出来た。


「見たまえ、あの砦に妲己が立てこもっている。クク、やはりか弱き人の子には手も出せないようだ」


遠目から中央砦を眺め、太公望は楽しそうにくすくすと笑う。
砦を囲む蜀軍が、どうにか扉を破壊しようと試みているが、全くと言って良いほど歯が立たない様子なのだ。
やはり、人とは異なる妲己は相当に手ごわいのだろう。


 

[ 42/65 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -