果てしない鎖



「太公望どの!」

「悠生よ、貴公の仲間達は血気盛んなようだ」


細身の釣り竿を手に、皮肉っぽく笑っていたのは、悠生が親しく接していた仙人・太公望である。
悠生は指摘されて初めて、周囲の異様な雰囲気に気が付いた。
太公望を取り囲む兵達は、突如として現れた美しい顔の不審者を警戒し、武器を向けているのだ。


「ま、待って!阿斗、この人は太公望どのっていって、僕も沢山お世話になったんだ。だから、敵じゃないんだよ!」

「悠生がそう言うのならば…、だが、人間では無かろう?妲己の仲間ではないのか?」

「クク…此の私を信用出来ぬとは、愚かな子だ。まあ良い。私は悠久を…悠生を迎えに来ただけだからな」


太公望の言葉に耳を疑ったのは、阿斗だけでない。
まさかこんなに早く、迎えに来てくれるとは思わなかったのだ。
悠生は後の脅威を取り除くため、太公望の元で修行をするつもりでいた。
だが、幸せに目が眩んで、彼の力を借りるという件をうやむやにし、はっきりと返事をしなかったのも事実である。


「太公望どの…ごめんなさい…やっぱり僕は…」

「…こちらも、事情が変わったのだよ。悠生よ、貴公は人界に居てはならない。一刻も早く、私と共に仙界へ…」

「悠生は蜀の人間だ!仙界などに行く理由など無い!」


悠生と引き離されると思い冷静さを失った阿斗は敵意を剥き出しにして、太公望に喰ってかかる。
初めこそ、太公望は鬱陶しそうに阿斗を見下ろしていたが、徐々に顔色が変わっていった。
瞬きもせずに、太公望を貫く子供のその眼差し。
大徳と呼ばれる男の血と意志を受け継ぐ、誰よりも稀有なるその存在…
友のため、強くあろうとする子供の姿に、何かを感じたのだろうか…、太公望は静かに背を向けると、声を押し殺し、可笑しそうに笑い始めた。


「ああ、なんということだ!大徳の子よ…これは流石の私も予想し得なかった」

「何が言いたい…」

「致し方ない。悠生よ、この話は後にしよう。ところで、妲己は中央砦に潜んでいるが、結解を用い、侵入を拒んでいる。結解を破壊するには、貴公の力が必要だ。"今"は一時で良い、同行してくれはしないか」


 

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