果てしない鎖



「悠生殿…私の代わりに、劉禅様をお守りしてくれるかい?」

「はい。子龍どのも、お気をつけて…」


趙雲の手に触れた悠生は、きゅっと握り締めると、彼の無事を切に願った。
全てを知っていた悠生にも、分からないことがある。
人々の行いにより、定められていたストーリーは大きく変わってしまった。
今日この戦で、大切な仲間が傷付くかもしれないのだ。

急に、怖くてたまらなくなる。
嫌な想像をして、悠生は唇を噛んで俯いたが、趙雲は阿斗の目前でありながら悠生の額にそっと口付けをしたのだ。
驚きと羞恥に、かっと顔が熱くなる。


「な、なっ…!」

「貴方を残して死にはしない。どうか私を信じて、劉禅様のお傍に居てくれ」


何も言えずに赤くなるだけの悠生をよそに、趙雲は自分の想いを伝えると、颯爽と戦場へ向かっていった。
悠生は彼の背を見送り、趙雲の唇が触れた額を押さえた。
仲が良くて羨ましいと笑う阿斗に否定も肯定も出来ず、甘い余韻に浸ることもなく、悠生は恥ずかしさに俯くばかりだった。





本陣の守備を任された悠生は、数人の兵とともに櫓に上り、広い戦場を見渡しながら、頭の中では、ゲームでの戦の流れを思い返していた。

蜀軍は妲己が篭る中央砦を目指すが、彼女の妖術により、進軍は困難を極めることだろう。
ぶつかり合う刃音、己を奮い立たせようとする兵卒達の勇ましい声。
風に乗って届けられる、戦場が奏でる音色。
本陣から一番近い南東砦を見れば、煙が上がり、既に遠呂智軍と衝突したことを知る。


(妲己の術で、多くの兵は体の自由が利かなくなる…無双武将は、大丈夫だろうけど…)


ゲームでは、力の弱い兵卒のことなどほとんど気に止めなかったが、劉備のために戦う彼らは、今此処に生きているのだ。
術をかけられて自由を失い、抵抗も出来ずに、命を無駄に散らせることになったなら…、それはあまりにも、悲しいではないか。


(僕も戦場に…、妖術兵長の居場所だって、分かってるし…)


皆に、戦の全容を語ることを出来ないけれど、いざという時はマサムネに乗って、目的の場所へすぐに駆けつけなければ。
しかし、今日は阿斗を守ることが自分の一番の役目だ。
阿斗の様子が気になって、櫓を降りた悠生だが、その阿斗が一人で立ち尽くしているのを見て、どうしたものかと首を傾げた。


 

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