果てしない鎖



劉備と徳川家康の会談中、古志城から姿を消し逃亡していた妲己が、石亭に潜伏しているとの報が飛び込んできた。
度々、逃げ回る彼女の姿が目撃されてきたと言うが、今回妲己は石亭に兵力を集中させ、明らかに敵を向かえ打つつもりでいる。

劉備は諸葛亮に留守を任せ、妲己を捕らえるため自ら石亭に出陣した。
趙雲も劉備に従い、そして悠生と阿斗も、彼らに付き従った。

阿斗にとっては、初めての戦となる。
いずれ劉備の意志を継ぎ、人の上に立たなくてはならない阿斗にとって、経験を積むことは何より大事なことだ。
顔には出さないが、きっと不安でいっぱいなのだろう。
悠生とて、戦場の異様な空気には、未だに慣れることはない。
本当は戦なんて嫌だけれど、此度の戦は味方同士で争う訳ではなく、皆一緒に戦えるのだ。


(僕が、阿斗を守ってあげなくちゃ…)


弓を手に、悠生はひっそりと決意をする。
石亭の地に敷いた本陣には、鎧に身を包んだ蜀軍が整列し、総大将である劉備の檄を受けていた。
長らく囚われの身であった劉備は、今度こそ皆の役に立ちたいと心から願い、その真っ直ぐな瞳には強い意志が秘められている。
劉備の妻である孫尚香も微笑み、兵の士気高揚にも一役買っていた。


「皆、無茶はしないこと!私たちの絆を妲己に見せ付けてやりましょう!」


戦場に立ってしても、尚香は無邪気な少女のようで、趙雲も密かに苦笑するほどだ。
悠生の隣にぴたりとくっついて、阿斗はどこかつまらなそうに口を噤んでいたが、そんな阿斗を案じてか、趙雲はそっと声をかけた。


「劉禅様。ご不満もありましょうが、此度は本陣で待機をしてください。悠生殿にも、本陣の守備をお願いしておりますので…」

「お優しいことだ。子龍、そなたは悠生を危険に晒したくないだけであろう?」

「勿論、悠生殿を戦場に連れて行くことは不本意でしたが…夫人の仰る通り、私達の絆は強い。どうか、皆を信じてください。本陣に敵は近付けさせません」


阿斗の心が、世話役である趙雲にはよく分かるのだろう。
初めて戦場に立つことによる不安よりも、存外無茶をする悠生を戦場に立たせたくないという想いが強いのだろうと、悠生にも伝わってきた。
至って冷静に受け答え、阿斗を励ますように柔らかく微笑んだ趙雲は、次に悠生を見つめ、優しげな視線を向けた。



 

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