命を得た言葉
どんなに大きな理由があったって、人を殺して良いことにはならないだろう。
他人の命を勝手に奪う資格など、誰も持っていない。
だから、戦は罪でしかないのだ。
業を背負い、罰を受け、戦場で散った人々の死を無駄にしないように、生きていかなければならない。
「戦が始まったらまた、人を殺すんだって思うと、怖いよ…だけど、僕にだって戦う理由はある。戦で散っていった人たちが命懸けで守ったものを、守りたいんだ…だから、僕は戦場に行く」
大好きな姉が、咲良が守ったこの世界を…、阿斗が生きる国を、これ以上乱させたりはしない。
ちっぽけな自分に出来ることは、数知れているだろう。
だけど、逃げることは決して許されない。
必ず、何があったって守ってみせる。
悠生の強い決意に触れた阿斗は、少し泣きそうな顔をして、唇を震わせた。
「そなたは…強いな…強くなった。私には到底、真似出来ない…弱音ばかりで、やはり、情けないな」
「阿斗は情けなくなんかないよ。人の痛みが分かるんだもん。劉備さまみたいに、皆と同じところから、乱世を見詰めること…それが、大事なんじゃないかな」
そっと阿斗の手を握り、悠生はぎこちなくだが微笑んだ。
阿斗はぎゅっと握り返してくれたが、その顔色はまだまだ険しい。
劉備は皆と同じ苦しみを感じ、悲しみでさえ、共に分かち合うことが出来る男だ。
それはとても耐え難く、難しいことかもしれない。
自分自身は、手を汚すことが無いのだから。
だが、この苦境を乗り越えてこそ、阿斗は立派な大人になれるはずだ。
いつの日か、暗愚と呼ばれぬ、素晴らしき名君になってくれると、悠生は信じている。
「阿斗殿!まろは、皆で蹴鞠をして暮らせる世を作るために、戦っているの!」
「…では、私が皇帝になりましたら、蹴鞠を世に広めるため尽力致しましょう」
夢のある義元の優しげな言葉に、阿斗はやっと緊張を解き、笑ってくれた。
悠生も安心し、彼の手をより強く握った。
END
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